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【この記事に登場する有識者】
濱部宗之さん
某外資系コンサル会社に戦略コンサル部署のマネージャーとして着任。企業のBPR戦略立案、計画策定、BPO組織構築及び運営実務までのプロジェクトマネジメントを実施。
また、お客様へのマーケティングオートメーション導入コンサルを行っている。マーケティングオートメーションの企画・開発、自社活用、お客様への営業と、幅広く経験。実際に複数のマーケティングオートメーションを活用し、SATORI・Eloquaなど複数ツールに知見がある。
MAツールとは?意味やできること
MAツールとは、どのようなシステムのことを指すのでしょうか。MAツールの導入コンサルを行っている濱部宗之さんに詳しく伺いました。
MAツールの意味とMAツールでできること
──MAツールとはどのようなシステムなのか教えていただけますか?
MAツールは、マーケティングオートメーション(Marketing Automation)ツールの略で、端的には「見込み客の判別や育成を半自動的に支援してくれるシステム」のことを指します。
──「半自動的」というのはどういう意味でしょうか?
マーケティング業務のすべてが自動化できるわけではないということです。
例えば、「自社資料をダウンロードした人にメールを送る」という業務自体はMAツールが自動的に行ってくれます。しかし、メールのコンテンツ自体はマーケティング施策を行う担当者が考えなければなりません。
また、見込み顧客情報について可視化した後に、その顧客に対してどうアプローチをかけていくかといった戦略も、マーケティング担当者が決める必要があります。
MAツールはあくまでもマーケティング業務を「支援してくれる」ツールと理解しておいた方がよいでしょう。MAツールを活用することで、マーケティング担当者はより本質的な業務に多くの時間をかけられるようになるため、マーケティング施策の成功率をぐっと高められると思います。
MAツール、営業支援システム、顧客管理システムの違い
──同じくマーケティング業務で利用される、営業支援システム(SFA)や顧客管理システム(CRM)との違いを教えてください。
3つのシステムは、それぞれ目的が異なります。
【MAツール・営業支援システム(SFA)・顧客管理システム(CRM)の違い】
MAツール:顧客一人ひとりの見込み度の判別と育成が目的 営業支援システム(SFA):顧客企業ごとの見込み度の判別と、営業(商談)の進捗管理が目的 顧客管理システム(CRM):顧客情報の一元管理が目的 |
まず、MAツールの目的は、個人顧客(企業であれば担当者)の見込み度を判別し、育成することです。
営業支援システム(SFA)は、企業単位で顧客の見込み度を判別することと、営業担当者の進捗管理が目的になります。そのため、契約額の目安を表示したり、名刺を一元管理したりといった、営業活動をサポートする機能が備わっています。
顧客管理システム(CRM)の目的は、問い合わせや購入履歴といった顧客情報を管理することです。これらの情報を活用することで、顧客一人ひとりに合ったサービスを提供することが可能になります。
自社の目的を整理して、ニーズにあったシステムを選ぶことが大切です。
MAツールの導入効果は? メリット・デメリットを解説
MAツールを導入することで、具体的にどのようなメリット・デメリットがあるのでしょうか。
濱部さんがあげてくださったのは下記の点です。
【MAツールのメリット】 | 【MAツールのデメリット】 |
・見込み顧客情報の可視化 ・メールマーケティング業務の効率化 ・人的ミスの削減 | ・活用できるようになるまでに時間がかかる ・利用料金が高い |
それぞれ詳しく解説します
【メリット①】見込み顧客情報の可視化
──MAツールを導入するメリットを教えてください。
MAツールの導入メリットはおもに3つあります。
1つ目は、見込み顧客情報の可視化です。
MAツールには、顧客一人ひとりのアクションをもとに見込み度を可視化するスコアリング機能が搭載されています。例えば、「メール開封で1ポイント、メールのURLからサイトに飛んだら10ポイント、1ヶ月以内に自社サイトへ3回以上訪問したら15ポイント」といったルールで加点していきます。つまり、ポイントを多く獲得している顧客ほど、「自社のサービスや製品に対して興味がある」と仮説が立てられるのです。
これまでのマーケティング活動では、「顧客の見込み度」はあまり数値化されておらず、感覚的にとらえられることが少なくありませんでした。MAツールを利用すれば、顧客の見込み度が定量化されるので施策に活かしやすくなります。
また、「顧客がいつサイトに訪れたのか」などの行動履歴も可視化されるため、顧客の行動分析ができ、効果が出ている施策・出ていない施策も明らかになります。これらの顧客情報の可視化は、大企業・中小企業問わず、マーケティングを成功させるためには必須です。
【メリット②】メールマーケティング業務の効率化
2つ目のメリットは、メールマーケティング業務を効率化できることです。
顧客に対して接点を作るために、メールマーケティングは欠かせません。しかし、一人ひとりに文章を書きメールを送信する作業は、顧客が増えるほど大変になります。
MAツールには、定期的にメールを自動送信する機能や、一度に大量のメールを送信する機能があります。例えば、資料がダウンロードされたときにあらかじめ作成しておいたメールを自動で送ったり、数日経っても開封されなかった場合に再度同じメールを送ったりすることができます。
また、大量のメールを送る場合、手作業で一人ひとりのメールアドレスを入力すると膨大な時間がかかりますが、MAツールを使えばその作業が必要ありません。
【メリット③】人的ミスの削減
3つ目のメリットは、人的ミスを減らせることです。
顧客情報を取り扱うマーケティング業務では、ちょっとしたミスが大きな損害に繋がってしまう可能性があります。例えば、連絡先を打ち間違えて顧客の個人情報が含まれたメールを別の人に送ってしまったら大問題になり企業の信頼性が損なわれてしまいます。MAツールで自動的にメールを送れるようにすれば、誤送信などのミスが起こりにくくなります。人的ミスの発生が課題になっている企業には導入効果が大きいでしょう。
【デメリット①】活用できるようになるまでに時間がかかる
──MAツールを導入するデメリットとしては、どのようなものが考えられるでしょうか?
デメリットは2つあります。
1つ目は、業務で有効活用できるようになるまでに時間がかかることです。
MAツールを取り扱うには、一定量の知識と経験が必要です。しかも、マーケティングの知識ととツールの使い方の知識の両方が必要になります。
MAツールの導入を決定してから実際に活用できるようになるまでには、だいたい3ヶ月以上の時間がかかります。企業によっては1年以上かかることもあります。
──短い時間で活用できるようになるためのポイントはありますか?
サポート体制の充実している製品を選ぶことが大切です。導入後も運用の支援をしてくれる製品であれば、効果的な使い方をスムーズに身につけられるでしょう。
【デメリット②】利用料金が高い
2つ目は利用料金が高いことです。
製品によっては、導入費用だけで数百万円かかるものもあります。あらかじめ費用対効果がどの程度得られるのかをシミュレーションしつつ、自社に合った料金体系の製品を選ぶことが大切です。
また、初期費用や基本の利用料金は安くても、必要な機能やサービスをオプションでつけていくと、結局コストが高くなってしまうケースもあるので注意しましょう。
MAツールのおもな機能
ここからは、MAツールに備わっているおもな機能について解説していきます。
MAツールのおもな機能は下記の4つです。
【 MAツールのおもな4つの機能】
機能 | できること |
見込み顧客の情報管理機能 | 企業名、顧客名、メールアドレス、住所、電話番号、購入履歴、アンケート回答内容などの情報を一元で管理できる |
メール配信機能 | 顧客の行動やニーズに応じて、メールを送信できる |
顧客の見込み度判別機能 | 見込み度の高い顧客を判別し、マーケティングや営業が行える |
問い合わせフォーム作成機能 | 問い合わせフォームを作成する機能 |
見込み顧客の情報管理機能
1つ目は、見込み顧客の情報管理機能です。以下のような顧客情報を登録・管理できます。
- 企業名
- 顧客名
- メールアドレス
- 住所
- 電話番号
- 購入履歴
- アンケート回答内容 など
セミナーなどのイベントで名刺を入手した顧客、自社サイトへ訪問してくれた顧客、インターネット広告から商品を購入してくれた顧客など、さまざまな場面で得た顧客情報を一元管理できます。これにより、顧客のタイプやニーズに応じたマーケティングが行えるようになります。
メール配信機能
見込み顧客に対して、半自動的にメールを配信する機能です。前述の通り、MAツールでは資料をダウンロードした際や、サービス契約期間の終了1ヶ月前など、顧客の行動や状態に応じてメールを配信できます。
また、メールを送ってから数日経っても開封していない顧客や、メールは開封したもののメール本文にあるURLをクリックしていない顧客に限定して、メールを再送するといったことも可能です。
さらに、顧客情報をもとに対象者を分類しメールを送ることもできます。例えば、自社の商品やサービスを購入したことがあるかないかで対象者を分け、購入したことがある顧客には「再購入を促すようなメール」を、購入したことがない顧客には「おすすめ商品に関するメール」を送るなど、異なったアプローチが可能です。
顧客の見込み度判別機能
MAツールには、メール開封や資料請求といった顧客のアクションに応じてポイントを付け、自社にどれほど興味を持っているのかを判別するスコアリング機能が備わっています。自社が重視しているアクションのポイントを高く設定しておけば、見込み度の高い顧客の判別がしやすくなります。
このスコアリング機能により、重点的にナーチャリングすべき顧客の目安が付けられます。すべての顧客に対して営業を行うことは時間的に難しいため、注力すべき顧客を絞り込むことで、マーケティング業務の効率化と質の向上が見込めます。
問い合わせフォームの作成機能
MAツールでは問い合わせフォームの作成ができます。
問い合わせフォームとは、商品やサービスについての質問、または資料請求の際に氏名やメールアドレスなどの必要事項を入力してもらうフォーマットのことを指します。問い合わせフォームで得られた情報は自動的にMAツール内に顧客情報として登録されるので、マーケティング業務に活用できます。
MAツールの導入に失敗する企業と成功する企業の特徴
MAツールは導入から運用までに時間がかかり、利用料金が高い製品も多いので、「思うような成果が得られなかったら…」と、導入をためらっている方も多いでしょう。
そこで、濱部さんにMAツールの導入に失敗する企業と成功する企業の違いや、導入を成功させるためのポイントについてお聞きしました。
MAツールの導入に失敗する企業の特徴
──MAツールをうまく使いこせない企業にはどのような特徴がありますか?
下記の3つが挙げられます。
【MAツールの導入に失敗する企業の特徴】
- 自社サイトの設計が不十分
- 顧客情報を紙で管理している
- 顧客単価が安い商材を扱っている
そもそもマーケティングをするにあたって、自社サイトは欠かせません。導入実績やお客様からの声、問い合わせフォームなどを備え、顧客をうまく資料請求や申し込みへ誘導できるように設計されているかが重要です。
また、顧客情報を名刺や紙のリストなどで管理していてデジタルデータ化できていないと、MAツールに取り込めないのでマーケティングに活かせません。
この2つはMAツールを導入するうえで、非常に重要です。
加えて、MAツールは導入費用だけで数百万円かかる製品もあるので、そのような高額なツールだと、単価が安い商品やサービスを販売している企業では費用対効果が見合うまでに時間がかかる場合があります。
MAツールを有効活用できる企業の特徴
逆に、MAツールをうまく使いこなせる企業の特徴としては下記の2つです。
【MAツールを有効活用できる企業の特徴】
- 自社サイトが、使いやすく商材の魅力的が伝わりやすいよう設計されている
- 継続的にマーケティング活動を行える
──「使いやすく商材の魅力が伝わりやすい自社サイト」とは、どのようなサイトでしょうか?
2つ特徴があります。1つは、きちんとした道筋があること。もう1つは、出口があることです。
道筋とは、「自社サイトを訪れた顧客が目的を達成するまでの導線」のことです。例えば、商品やサービスの概要を読んで、その次に事例を見て、最後に資料請求のフォームを入力するといったように、顧客に取らせたい最終的なアクションまでの流れが設計されていることが大事です。
出口とは、「顧客に達成してもらいたい目的」のことで、これも明確にしておくことが重要です。商品の購入、資料請求、問い合わせなど、サイトの目的はいろいろあると思いますが、明確になっていないと成果につながりにくくなってしまいます。
逆にこの出口さえしっかりしていれば、たとえデザインが優れていなくても、顧客に目的を達成してもらいやすくなります。意外とこの出口が明確になっていないサイトが多く、得られるはずのリード情報を取りこぼしてしまう可能性もあります。自社サイトをもう一度確認してみましょう。
──継続的なマーケティング活動についても教えてください。
マーケティング活動では、特に継続的なメール配信が欠かせません。メール配信には、「メールの作成」「メールの送信」「メールを送る顧客の獲得」の3つの作業があります。この3つを作業を継続して行える企業は、MAツールを最大限活かすことができるでしょう。
反対に、メールを2、3通打って思うような反応が得られなかった場合にメール配信をやめてしまうようなら、MAツールを導入してもあまり効果は見込めません。
MAツールを使ったマーケティングは最初からうまくいくことはほとんどありません。「どのようなコンテンツのメールを」「どのタイミングで」「誰に送るのか」を、日々検証を重ねて改善していくことが成果を得るためには必要です。
MAツール4製品と選び方のポイントを紹介
最後に、多くの企業で導入されているMAツール4製品と、製品選定のポイントを紹介します。
コスト重視なら「Kairos3」
公式サイト: https://www.kairosmarketing.net/marketing-automation 運営会社:カイロスマーケティング株式会社 |
【製品情報】
初期費用 | 1万1000円 |
月額料金 | 1万6500円〜 |
連携可能なSFA,CRM | Kairos3 SFA Sales Cloud など |
有料オプション内容 | シナリオ作成機能(特定条件のメール配信を自動化) SFA連携 など |
サポート体制 | 初期設定や操作のスタッフサポート 電話問い合わせ ヘルプページ 事例共有セミナー など |
無料お試し | ◯ |
【特徴】
- 月額1万6500円(税込)〜と、スモールスタートで始められる
- メール配信に関わる機能が充実している
- 専任スタッフが初期設定や基本操作、活用プロセスまで包括的にサポートしてくれる
手厚いサポート体制が魅力「SATORI」
公式サイト:https://satori.marketing/ 運営会社:SATORI株式会社 |
【製品情報】
初期費用 | 33万円 |
月額料金 | 16万2800円 |
連携可能なSFA,CRM | Sales Cloud など |
有料オプション内容 | データ提供 独自ドメインマーケティング 製品活用のアドバイス など |
サポート | カスタマーサクセス 無料セミナー オンラインサポート オンラインマニュアル など |
無料お試し | ◯ |
【特徴】
- 匿名リードへのマーケティングに強みを持つ
- マーケティング施策や製品の活用方法についてアドバイスをしてもらえる(有料オプション)
- 純国産MAツール。日本のビジネス環境に合った機能を備え、サポートもスピーディー
SalesForceのMAツール「Pardot」
公式サイト:https://www.salesforce.com/jp/products/pardot/overview/ 運営会社:株式会社セールスフォース・ドットコム |
【製品情報】
初期費用 | 要問い合わせ |
月額料金 | 16万5000円~ |
連携可能なSFA,CRM | Salesforce Engage Salesforce CRM など |
有料オプション内容 | Salesforce Engageの連携 など |
サポート | ヘルプサイト デモ動画 など |
無料お試し | - |
【特徴】
- Salesforceとの連携し、より精度の高いマーケティングが行える
- 4つのプランからニーズにあったものを選べる
- 施策ごとに投資対効果(ROI)を算出できる
高額だが高機能「Marketo Engage」
公式サイト:https://jp.marketo.com/ 運営会社:アドビ株式会社 |
【製品情報】
初期費用 | 要問い合わせ |
月額料金 | 要問い合わせ |
連携可能なSFA,CRM | Salesforce Microsoft Dynamics CRM など |
有料オプション内容 | 要問い合わせ |
サポート | カスタマーサポートコンサルティングサービス有料トレーニング など |
無料お試し | - |
【特徴】
- 運用方法やマーケティング戦略立案のコンサルティングサービスがある
- SlackやChatwork、kintoneなど、さまざまなツールと連携できる
- 全世界で5000社を超える導入実績がある
MAツールの比較と選び方
MAツール4製品の特徴を紹介してきました。製品によって強みや機能性、プランや料金が異なります。比較検討して自社の状況に合致したツールを選びましょう。
MAツールの選び方やより詳細な製品情報は下記の記事で解説しています。各ツールの機能比較表や導入企業の口コミも紹介していますので、ぜひ参考にしてください。
まとめ
MAツールは、マーケティング業務に役立つツールです。見込み顧客情報の可視化、メールマーケティング業務の効率化、人的ミスの削減などさまざまなメリットがあります。
「マーケティングのクオリティをもっと上げたい」「マーケティング部門の効率化を図りたい」と考えているなら、ぜひ導入を検討してみてはいかがでしょうか。