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【この記事に登場する有識者】
Tetsuya Kawada Consulting Service 代表
川田哲也さん
IT業界でのB2Bマーケティングや営業を20年間携わった後、独立。現在は、フリーランスのマーケティングコンサルタントとして、BtoBマーケティング戦略の立案から実施、DX支援、新規事業開発などに携わる。
グループウェアとは?導入メリットは?
グループウェアの知見が深いコンサルタントの川田哲也さんに、グループウェアの定義や導入メリットについてお聞きしました。
グループウェアとは?
――そもそもグループウェアとはどのようなツールなのでしょうか?
一言で言えば、「組織に所属する人々のコミュニケーションを円滑にし、業務効率化を推進するシステム」です。
さらに詳しく説明すると、グループウェアには2つの側面があると考えています。
1つは、「スケジュールや掲示板などの機能を使用して情報共有ができるシステム」。
もう1つは「他のシステムと連携してコミュニケーションのハブとなるシステム」です。
スケジュールや掲示板などの機能を使用して情報共有ができるシステム
社内で円滑に業務を進めるためには、スケジュールや資料などの情報共有が欠かせません。
各メンバーの作業スケジュール、お客様から入ったクレームの内容や営業に関する成功事例など、社内で共有することによって今後の業務がさらに進めやすくなる情報はたくさんあります。会議室などの施設予約状況なども、すぐに把握できると便利ですよね。
こうした情報共有は、会社が小規模であれば全員から見えるホワイトボードに書くことで事足りるかもしれませんが、会社が大きくなれば物理的に難しくなるでしょう。
さらに今は、働き方改革や新型コロナウイルスの影響で、リモートワークも進んでいて、そもそもオフィスに全従業員が集まること自体難しくなっています。
そこで、インターネット上にホワイトボードの機能を作ることによって、従業員全員が把握しておくべき情報を共有しやすくするのが、グループウェアの1つの役割です。
他のシステムと連携してコミュニケーションのハブとなるシステム
普段の業務では、メールボックス、資料の共有ファイル、スケジュール管理など、さまざまなシステム画面を開きますよね。
毎日これらのシステムを使用するのに、それぞれアクセスしなければならないのは面倒です。
グループウェアの中には、連携しているシステムへアクセスできるものもあります。
グループウェアの導入メリット
――グループウェアを導入するメリットについて、詳しく教えてください。
導入メリットは、大きく分けて「情報共有」と「業務効率化」の2つです。
情報共有
先ほども話した通り、インターネット上にホワイトボードを作ることによって、ネット環境があればいつどこからでも情報共有が可能になります。
また、スケジュール機能を使えば、他のメンバーの予定が把握できるため、会議の調整も簡単です。
既読機能がついたチャットや掲示板を備えているグループウェアもあります。メールや口頭よりも伝え漏れが起こりにくく、確認や調整のための作業工数も削減できるでしょう。
業務効率化
外部システムと連携することによって、業務開始時に開く画面は1つで済み、業務効率化が期待できます。
――グループウェアと連携することが多い外部システムには、どのようなものがありますか?
例えば、稟議や決裁などの申請をするためのワークフローシステムですね。
進捗状況のステータスが簡単に把握でき、意思決定の迅速化が図れます。
他にも、SFA(営業管理システム)やMA(マーケティング オートメーション)ツール、ERP(統合基幹システム)などと連携することも多いですね。
企業の課題に応じて連携するシステムを増やすことで、さらなる業務効率化が図れます。
グループウェアのおもな機能
ここからは、グループウェアに備わっているおもな機能について、編集部が解説していきます。

1. スケジュール機能
自身のスケジュールを、他の従業員とも共有できる機能です。「Googleカレンダー」をイメージしてもらうと、わかりやすいでしょう。
スケジュール機能があれば、自分以外の予定も一目で確認できるので、会議の日にちや行事の日程調整、チームメンバーのタスク管理などが楽になります。また、従業員の離席状況なども把握しやすいので、電話対応もスムーズになるでしょう。
製品の機能紹介に「スケジュール」という単語がなくても、「カレンダー」「タスク」などがあればそちらに含まれていることが多い機能なので、製品説明を詳しく確認しましょう。
2. チャット機能
ビジネス利用に特化したコミュニケーション機能です。
これまで社内外の連絡手段といえば、電子メールが主流でした。しかし、各種ツールの発展や利便性などから、多くの企業がチャットに移行しつつあります。
チャット機能は、即時性の高さが魅力の1つです。電子メールのようにしっかりとした文面を作らずとも、口頭で会話しているかのような気軽さで連絡が取り合えます。
そのため、社内連絡のように様式よりも効率が優先される場面では、チャットが適しているでしょう。
また、「社内連絡はチャットで・社外とのやり取りは電子メールで」と、明確に区分することで、重要な情報が埋もれにくくなるというメリットもあります。
ただし、社内メール・社外メール・ビジネスチャットと利用ツールを増やしすぎると、逆に管理が難しくなる恐れもあるので注意してください。
3. 社内メール機能
グループウェアには社内メール機能も搭載されています。
多くの企業が社内連絡をビジネスチャットに移行しつつあるとはいっても、社内メール機能が不要なわけではありません。
例えば、チャットでは連絡を取り合ううちに、情報は流れていってしまいます。そのうえ、送信後にメッセージの編集・削除ができるため、確かな情報の保持には向きません。確実にやり取りの内容を残したいというシーンではメールの方が優れています。
また、チャットは気軽なやり取りを重視した機能のため、長文でのやり取りには適しません。業務連絡などで頻繁に長文のやり取りをするような企業の場合、社内メール機能は重要です。
4. 掲示板機能
連絡事項を共有するための機能です。いつ、どこからでも確認できるので、時間と場所の節約にもなります。
従来だと、他の従業員と共有したい事項や社内広報などは、オフィス内に貼りだしたり、メールを利用したりしていました。しかし、これらの連絡方法には不完全な部分が多くあります。
例えば、会社の規模が大きくなると、物理的な掲示板などで内容を周知するのは困難です。また、近年はコロナ禍の影響もあり、1カ所に従業員を集めるのが難しい企業も多いでしょう。
チャットや社内メールだと、投稿が流れたりメールが埋もれたりしてしまい、従業員全員に連絡事項が伝わらない恐れもあります。
掲示板機能では、対象者に通知を送ったり、既読者を把握できたりするので、共有漏れが起こりにくくて便利です。
5. ファイル管理機能
メンバー間でファイル共有や管理ができる機能です。
この機能を活用することで、「目的のファイルを見つけるのに時間がかかる」「どのファイルが最新のものかわからない」などの課題を解決できます。
また、複数のメンバーで同じデータファイルを同時に作業できるので、生産性も高められるでしょう。
6. ToDo機能
個人やチームが行うべきタスクをリスト化する機能です。
タスクごとに期日や重要度を設定し、進捗を管理できます。「タスク管理に特化したスケジュール機能」ともいえるでしょう。
グループウェアによってはチャットや掲示板から直接ToDoに追加できる製品もあり、より効率化が図れるようになっています。
7. ワークフロー機能
稟議書や経費精算などの申請ができる機能です。
上長や役職者は各申請に対して、パソコンやスマートフォンなどから承認・決裁ができます。
出先からでも承認・決裁が行えるので待ち時間が減るほか、申請書を印刷する手間もなくせるので、業務の工数が減り、承認までの時間も短縮できます。
8. 施設予約機能
会議室や備品(プロジェクター、Wi-Fiルーターなど)をシステム上で予約できる機能です。
スケジュール機能と一緒に活用することで、会議などの日程・場所・設備の調整を無駄なく迅速に行えるというメリットがあります。
施設予約機能は単体の機能として備わっている製品もあれば、カレンダー機能などに含まれているものもあります。
グループウェアの導入事例
編集部が独自取材した、グループウェアの導入事例を紹介します。
■A社(情報サービス業/従業員150人程度/導入している製品:desknet’s NEO)
各自のスケジュールを共有して、打ち合わせなどの日程調整をすぐにできるようにするためです。
それまでは、電話やメールで「◯日の◯時空いてますか?」と、参加者一人ひとりに聞いて回らなくてはいけなかったので大変でした。
お客様から電話があったときに、その通話中に次の打ち合わせの日程を決められるようになりました。会議の参加者全員の予定をパソコンの画面に表示し、空いている日時を即座に確認できるので便利です。
それと、文書管理の機能が役立っています。就業規則、申請書、運用の手引きなどをアップしておけば誰でも確認できます。従業員からの問い合わせ件数が減り、社内ルールの通知も楽になりましたね。
基本的な機能は備わっているのはよいのですが、他製品との連携がよくないです。
例えば、Google Workspaceやslack、zoom、これから導入を考えている受付システムなどと自動で連携ができません。他システムとの連携は、製品選定時によく確認した方がよいと思います。
あとは、従業員に情報を共有をするための掲示板みたいな機能があるんですけど、誰が読んでいて誰が読んでいないのかがわからない。誰が読んだか判別できるグループウェアもあるようですが、私たちが利用している製品ではできないので不便です。
■B社(制作会社/従業員250人程度/導入している製品:kintone)
理由は大きく2つあります。
1つは、見積書や発注書の仕様と保管場所が事業部ごとにバラバラだったので、統一して管理したかったから。
もう1つは、当時利用していた会計システムのカスタマイズ性が低く、作業工数がかなりかかっていたので、別システムに切り替えたかったからです。
カバーできる業務範囲の広さと、拡張性の高さからグループウェアの「kintone」を導入しました。
組織状況に関わるデータがタイムリーにダッシュボードへ反映されるようになりましたね。
私たちのような制作代理店は、それほど利益率が高くない割に原価の振れが大きく、ミスすると最終利益が大きく変わってしまうので、できるだけ最新のデータを正確に把握しておくことが重要なんです。
グループウェアを導入したことで、会計業務を自社のオペレーションにあわせて行えるようようになったので、雑損失がほとんどなくなりました。
もう1つ大きかったのは、クライアントに出す見積書の管理がしやすくなったことです。部署やマネジャーによって違っていたフォーマットを統一し、クラウド上で一括管理できるようになりました。
導入直後は、仕様変更に対してブーブー言っていた現場社員もいましたが、徐々に不満が出なくなり、生産性は向上しましたね。
撮影費やWebページ制作費を細かく入力しなくてはいけなくなったので、その点は手間に感じます。
■C社(食品メーカー/従業員250人程度/導入している製品:kintone)
調達、生産管理、在庫管理、申請業務などの効率を高めることと、属人化していた業務を標準化することがおもな目的でした。
検討の際には、特に料金、連携できるシステムの数、拡張性に注目して製品を比較しましたね。
ワークフロー機能によって、各種申請手続きがスムーズに行えるようになりました。
紙の書類で申請していたときは、複数の承認者に順番に確認してもらわなくてはいけなかったのですが、ワークフロー機能では同時進行で承認作業を進められるので、意思決定までの時間が大幅に短縮できています。
また、販売管理や生産管理のアプリを使うと、週次、月次、年次ごとにデータを自動算出できるため、わざわざエクセルに記入して計算する必要がなくなりとても楽になりました。
機能や連携できるシステムが多すぎて、十分に使いこなせてはいないと感じることがあります。こうしたシステムに詳しい人を担当者に抜擢したり、カスタマーサポートを上手に活用したりすることが大事だと思います。
それと、セキュリティは常に意識しなくてはいけません。個人や会社の情報をクラウド上に保存することには当然リスクがありますから、どこまでをグループウェアで管理するかは慎重に判断した方がよいと思います。
グループウェアを検討する際の注意点
「グループウェアをただ導入しただけではうまくいかず、マイナスな影響が出てしまうことさえある」と、川田さんは指摘します。
最後に、グループウェアを検討する際の注意点について、川田さんに詳しく聞きました。
【グループウェアを検討する際の注意点】
- 業務課題とシステム導入の目的を明確にする
- 業務ルールやオペレーションも同時に見直す
- 経営層、情報システム部、現場の3者を巻き込んで検討する
1. 業務課題とシステム導入の目的を明確にする
――グループウェアを検討する際に、注意すべきことは何でしょうか?
グループウェアの導入を検討する際は、まず解決したい課題や目的を明確にすることが重要です。これによって、導入すべき製品が変わってきます。
また、グループウェアの導入目的を従業員に共有することも欠かせません。これらが実行できていないと、グループウェアを導入する意図が従業員に伝わらず、うまく活用されない恐れがあります。
例えば、リモートワークなどで従業員同士が顔を合わせる機会が減り、互いに何を考えているのかよくわからないという状況だったとします。
この場合の課題は、「従業員のエンゲージメントが低下する」「会社の士気が下がる」などが考えられます。
会社としては、従業員同士のコミュニケーションを活発化し、団結力を高め、目標に向かって売り上げを伸ばしたいといった目的があるでしょう。
グループウェア導入の際には、こういった課題や目的を明確にし、それを従業員に伝えて共有することが大事なのです。
2. 業務ルールやオペレーションも同時に見直す
グループウェアの活用を促進するには、グループウェアを使いやすくする環境作りも欠かせません。
各種申請の決裁フローや情報共有ルールといった、社内ルールの見直しも一緒に行いましょう。
これらを整備しないままグループウェアを導入してしまい、結局うまく使いこなせないケースが多いです。
グループウェアの導入とともに、社内制度も見直すことで、グループウェアを有効に活用できる可能性を高められます。
3. 経営層、情報システム部、現場の3者を巻き込んで検討する
グループウェアの選定でよく失敗する例に、「経営層、情報システム部、現場社員のいずれかにとって使いづらい、または運用の負荷が大きい」ことが挙げられます。
経営層、情報システム部、現場社員は、グループウェアを導入・運用するにあたって、必ず関わります。そのため、選定時からこの3者を巻き込んで検討しないと、導入後に不満や仕様変更の要望などが出てきて、運用がうまくいかなくなることが非常に多いです。
このようなことは当たり前に感じられるかもしれませんが、実際には「経営層の意向のみで製品が決まる」「情報システム部の運用負荷を考慮せずに導入してしまう」といったケースは意外と多いようです。
その結果、グループウェア導入後に、“現場では使えないシステム”と判断され誰にも利用されなくなったり、“情報システム部に過大な負荷が発生”して残業が多くなってしまったりなど、本来の導入目的である「情報共有」や「業務効率化」を逆に妨げる事態を引き起こしてしまうのです。
まとめ
「社内のコミュニケーションを円滑にしたい」「複数のシステムにまたがる業務を効率化したい」と考えているなら、グループウェアが役立ちます。
特に、会社規模の拡大やリモートワークなどによって社内のコミュニケーションが取りづらくなっているなら、ぜひ導入を検討してみてはいかがでしょうか。
グループウェアには、スケジュール機能やチャット機能、掲示板機能、施設予約機能など、さまざまな機能が集約されています。
導入の際には、これらの機能を使いこなせるよう、自社の課題とシステム導入の目的を明確にし、社内制度の見直しも同時に行うことが大事です。