5分でわかる! 電子帳簿保存法のポイント[2021年1月改正対応版]

多くの会社には、請求書や領収書など、法律で保存が義務付けられている膨大な書類を詰めた箱などが積まれたスペースがあるはずです。税務調査でもなければ決して開くことはないであろう書類のために、オフィスの一角が死んでいて、その管理に手間がかかるとすれば、なんとももったいない話です。しかし実は、これらの書類は、電子帳簿保存法などに基づいたしかる手続きをとれば、捨てることが可能です。運用面でも幾度かの法改定で保存ルールの要件が緩和され、電子化に踏み切りやすい状況が整いつつあります。そこで、保存書類の電子化に関するポイントを、元国税局の情報技術専門官で、現在はSKJ総合税理士事務所所長の袖山喜久造氏に聞きました。

SKJ総合税理士事務所所長
袖山 喜久造(そでやま きくぞう)さん

SKJ総合税理士事務所 所長 税理士。平成元年、国税局採用。約15年間にわたり、大企業の法人税調査事務に従事。平成21年から情報技術専門官として電子帳簿保存法担当となり、申請書類の審査や企業の申請相談に携わる。平成24年に退職し、税理士事務所を開業。現在、「適正な会計情報のディスクローズのための企業の電子化」に向けた税務・電子帳簿保存関連のコンサルティングを行っている。

※この記事は「ダイヤモンド働き方研究所」から移管されました。

1.経費精算クラウド化の「3大メリット」とは

メリット1 領収書や請求書の保管コストが必要なくなる

データ化のための法律は20年以上前からある

役所関係の文書は簡単にデータ化できない、と考えている人は多いのではないでしょうか。

たとえば、法人は請求書や領収書などの重要書類を、その事業年度の確定申告書の提出期限の翌年から7年間(平成30年4月1日以降に開始する欠損金の生じた事業年度においては10年間)保存しなければならないことになっており、帳簿書類は現在も紙による保存が原則ではあります。

しかし実際には、法定保存文書をデータ化するための法整備は、着々と進んでいます。今から20年以上前の1998年に制定された「電子帳簿保存法」という法律で、国税関係の書類について、税務署長の承認を得たうえで電子化することが既に認めらています。

また、2005年に施行された「e-文書法」では、国税関係以外の文書を含む、広汎な法定保存文書について、文書のデータ保管方法が定められました。

「経費精算クラウドサービス」が法対応のコストを下げた

電子帳簿保存法に則って文書をデータ化するためには、システムの導入、社内規程の作成・周知、管轄税務署への申請など準備が必要なのは言うまでもありません。帳簿はシステムで保存を開始する事業年度初日の3カ月前、書類は電子保存開始日の3カ月前が申請期限になります(帳簿については原則として課税期間の途中からは適用できない)。申請が認められると、承認以前の重要書類もスキャナ保存ができるようになります。つまり、電子化が済んだ過去の請求書や領収書の原本は処分できます。

一方で、多くの会社にとって電子化に躊躇する理由は、電子帳簿保存法への対応に必要なシステムの導入費用や、スキャナーなどの専用機器にかかるコストではないでしょうか。しかし、最近ではクラウドを活用した経費精算クラウドサービスが普及したことで、電子化のためのシステム導入コストはかなり下がってきています。紙の文書を社内で物理的に移動し処理する手間や、データと紐づけて整理・管理するのに必要なコスト、保管するスペースのコストに比べると、電子帳簿保存法に対応した経費精算クラウドサービス導入に必要なコストのほうが安いと言えるレベルになっているのです。

電子保存の種類

メリット2 消費税の複雑化に対応する

経費精算クラウドサービスにコスト的なメリットがあるとしても、導入時に必要な電子帳簿保存法への対応の手間などを考えると、今すぐ積極的に動きづらいという会社も多いかもしれありません。しかし、見送りを決め込んでいると、近い将来、経理事務に大きな負担が生じることになるかもしれありません。それは、軽減税率の導入により消費税の税率が複雑化したうえ、今後、いわゆる「インボイス制度」の導入が予定されているからです。

「働き方改革で過度の残業をさせにくくなっている一方で、経理の業務は確実に増えています。たとえば消費税は2019年10月1日から軽減税率が導入され、会計処理に税率8%と10%の売上や支払いが混在するようになりました。業種によってはこれだけでも伝票入力が倍になるなど事務負担は相当増えていると思いますが、2023年10月からは消費税のインボイス制度が始まります。そうすると証憑(納品書、請求書、領収書など取引の証拠となる書面又はデータ)保存はより確実にしなければなりません。証憑に適格請求書発行事業者登録番号が記載されているか、その番号が間違いなく課税事業者のそれであるのかを確認しなければなりません。それらを紙ベースで一枚ずつ処理していくのは、現実的ではないでしょう。」(袖山氏)

インボイス制度(適格請求書等保存方式)とは

消費税の「仕入税額控除」の要件を厳格化する制度です。この制度が始まると、課税事業者が発行する「適格請求書」(事業者登録番号の記載が義務づけられている)に基づく仕入れや支払いしか、消費税の「仕入税額控除」ができなくなり、対応しなければ消費税額の支払いが増えることになります。

「仕入税額控除」とは、事業者が顧客から受け取った消費税から、仕入先に支払った消費税を差し引いた額を納税する仕組みのことです。現在は売上高1000万円以下の免税事業者からの仕入れ分についても、仕入税額控除ができることとなっています。しかし、インボイス制度が始まると、免税事業者への支払いは仕入税額控除ができなくなります。仕入先によって仕入税額控除ができるものとそうでないものが混在することになり、分類・確認作業を含めて、会計処理の負担は増大することは確実です。

インボイス制度のポイント

メリット3 会社の空気を引き締める

「経費精算の乱れは社風の乱れ」

電子帳簿保存法に基づいて社内で紙の領収書を保管をやめる場合には、一定期間内に領収書をスキャンし、タイムスタンプ処理をする必要があります。その「期間」は、経費精算する社員が自分で領収書をデータ化するなら1週間弱、経理部など精算者以外の者がデータ化するなら約2カ月以内です。つまり、経費精算クラウドサービス導入にあたっては、社内の経費精算ルールを見直す必要があります。

ルールの見直しには、社内からの反発や不満もあるでしょう。しかし、このような新しいルールを守れない職場があるとしたら、その職場には、別の問題があるのかもしれありません。国税庁時代に幾多の企業に税務調査に入った経験がある袖山氏は「経費処理を見ればその会社のコンプライアンス度がわかる」といいます。

「細かい経費精算の不正だけを調べるために、わざわざ国税当局が企業調査に入ることはあまりありません。経費の一件ずつはせいぜい数万円程度と額が小さいですし、裏取りも容易ではないからです。税務署が本当に調べたいのは業務処理の適否であり、契約や納品や検収などの方法、売上や仕入れの計上の方法なのです。ですが、私は国税庁職員だった当時、調査の最初の段階では徹底して業務処理の方法をよく聞いていました。特に経費精算の方法についてはその会社がどの程度経費の計上を慎重に検討しているかを測るのに有用でした。

経費精算というのはどの会社でも行われている業務であり、あらゆる部署のすべての従業員が日常的にやっているのです。従業員から提出される経費精算についてどのくらいの頻度で経費精算をしているか、申請に対して社内でどういう審査や承認をしているかを見ると、その会社のコンプライアンス度がだいたいわかります。いい加減に経費精算をしている会社は、ほかの処理についても問題を抱えている会社が多いように感じます。」

「会社の空気を引き締める」効果

経費精算が日々厳格に行われ日付や用途の記載が細かく、経理が「領収書と申請書の日付が合っていない」「金額が違っている」「使途の説明が足りない」など何度も申請書を突き返して不明点をなくしている会社は、日頃から社内ルールの徹底がきちんとしており、本来業務においてもおかしなところが見つかることはほとんどないといいます。

「ところが、領収書があれば何でも経費に計上しているような会社は社内ルールがルーズでスキが多いです。そこで本来業務を詳しく見ていくと、架空外注費があったり売上の計上時期をズラしていたり、いろいろと問題が出てくるのです。調査する側からすると間接業務、とくに経費精算を見るのは会社の体質を見極める上で非常に便利なプロセスでした。これは税務調査だけでなく監査でも同じです。」

逆に言えば電子帳簿保存法に基づいて電子化へ取り組むと同時に、承認審査プロセスや社内規程をきちんと策定し、経費精算をルールに基づいてきちんと行う体制にできれば、会社の綱紀の緩みを引き締める良いきっかけとなり、業務の効率化という、本来の電子帳簿保存法の目的以上の効果が発揮されるということです。

CHECK!

電子帳簿保存法に基づく経費精算クラウド化には、領収書や請求書の保管コストが減る、消費税の複雑化に対応できる、会社の空気を引き締められる、という3つ大きなメリットがあります。

2.クラウド導入で、経費精算方法はどう変わるか?

領収書の7年間保存は不要になる

スマホ撮影で金額や日付を自動読み取り

経費精算を電子帳簿保存法に基づいてシステム化すると、次のような流れになりますまず、経費を立て替えた人は領収書を受け取ってすぐ、自分の名前を書き込んで(自署)スマホの専用アプリで撮影します。するとその画像はクラウドにアップされ、自動的に「タイムスタンプ」が付与されます。「タイムスタンプ」とはデータに刻印される日時の記録で、そのデータが時刻以前に確実に存在していたことと、その時刻以降にデータが改竄されていないことを証明します。

スマホで撮影された領収書は、システムが金額と日付を自動で読み取るります。申請者は、そこに使用目的などの情報を追加した上で精算申請のボタンを押します。すると申請者の上司に承認を求める通知が行き、上司が承認ボタンを押すと、今度は経理担当に承認を求める通知がいきます。経理担当が承認したら経費が精算され、領収書の原本(紙)は、社内の定期サンプル検査後に廃棄が可能にななります。

経費振込みまでの日数が短縮

「電子帳簿保存法では保存データに関して、解像度200dpi以上やカラーによる読み取り、解像度や階調情報の保存、入力者情報の確認など真実性を確保するためのいくつかの要件を求めています。しかし、これらはシステムが電子帳簿保存法に準拠した作りになっていれば、利用者が気にしなくても大丈夫です。会社によっては従業員に個人のスマホを使わせたくないというケースもありますが、その場合はタイムスタンプが付けられる複合機(e-文書法対応スキャナ)で電子保存する方法もあります。いずれにせよ従業員側は手順に従って領収書を画像に取り込めばいいだけです。」

実際に経費精算システムを導入したところでは、従業員も含め評判は良いという。そもそも、ほとんどの人は経費精算を面倒な作業と思っています。一枚ずつ台紙に糊付けして申請書に記入して……という煩雑な作業が、スマホで撮るだけなるのだからすんなり受け入れやすいのでしょう。しかも、承認された経費が振り込まれるまでの日数も短縮するのだから、いいことばかりです。

データ化には「日数制限」がある

「概ね3営業日以内」とは何日以内か?

電子帳簿保存法へ対応する場合、唯一、社員が負担に感じるのは「入力までの期限」かもしれありません。電子帳簿保存法では、領収書の電子データ化は受領してから特に速やかに入力という「3日ルール」があるからです。

つい最近まで3日ルールは文字通り「3日以内」だったので、たとえば金曜日に領収書を受け取ると月曜日までには電子化しておかなければなりませんでした。月曜日が祝日や振替休日だと休暇中にやらなければならないということで、画像を撮るだけとはいえなかなか厳しいハードルでした。

「そういう声が多くあり、国税庁は2019年7月の通達でこのルールを”概ね3営業日以内”と改正しました。金曜日に領収書を受け取った場合は水曜日が期限になるので、かなり緩和されています。しかも、“概ね”ですから厳密ではありません。たとえば毎日営業でシフト勤務制(休日が従業員ごとにバラバラ)の会社もあるでしょう。そういう会社では3出勤日としたり、全従業員統一で4~6日以内としても許容されます。」

「1週間」は「概ね3日以内」か、否か

なお、電子帳簿保存法の通達に「4~6日でも可」と書いてあるわけではないので、国税庁に「6日でいいですか」と問い合わせても「OKです」とは答えてもらえないでしょう(4~6日というのはあくまで袖山氏の解釈)。要するに「社内で規則を定め、それに従ってきちんと運用してください。」あるいは「定期的に検査を実施して、不正が発覚した場合に改善する体制を整えて下さい。」ということです。では、社内ルールで1週間以内と定めればそれもアリなのでしょうか。

「それは認められないと思います。というのも、電子帳簿保存法では領収書の保存方法について”特に速やかに”電子化するよう書いてあります。保存に時間がかかるほど改竄を可能にする機会が増えるわけでこれを防止するためですが、他の条文で”速やかに”という表現が使われている箇所があって、その目安が7日になっているのです。速やかにが7日で、特に速やかにがそれよりかかっては整合性がつきません。ですから領収書を本人が電子データ化する場合は、どんなにかかっても6日が限度です。」

概ね3営業日以内の図

「概ね3日」を過ぎてしまったらどうするか

では、何かの事情で「概ね3営業日」を逃してしまった場合は、諦めて自腹を切ることになるのだろうか!?否、その場合もちゃんと救済策は用意されています。

「概ね3営業日という期限は申請者本人が自署した領収書等を電子データ化した書類の場合であって、本人以外(たとえば経理部)が原本を預かってスキャンや確認をする場合は、不正に対する牽制効果が図れているため”業務処理サイクル後速やかに入力する”と入力期限が緩くなっています。具体的には2カ月と概ね7営業日、つまり約67日後です。」

キャッシュレス支払いならもっと作業が楽になる

領収書をもらうと手間がかかる

経費精算クラウドサービスを導入すれば、領収書を保管する必要がなくなるだけではありません。そもそも、領収書をもらう必要もなくなる場合があります。

クレジットカードや電子マネーなどの「キャッシュレス決済」で経費を支払った場合、決済事業者の利用明細データが自社の経費精算クラウドサービスとシステム上連携されていれば、領収書を受け取る必要がありません(2020年10月1日以降)。つまり、キャッシュレスで支払えば、領収書はもらわなくていいということです。当然「概ね3日ルール」も気にしなくていいことになります。

キャッシュレス支払いの場合は、支払った日時や金額、内容、店名などのデータが決済業者のサーバーに残っており、このデータを連携する経費精算クラウドサービスに取り込むことができます。支払いの証拠として、これほど確かなものはないから、領収書はいらなくなるのです。

この「データをデータのまま受け取り保存する」という方法は、紙の領収書をデータ化して保存する方法、つまり「領収書をスマホで撮影してデジタルデータにし、タイムスタンプを押し、伝票を起票して経費精算システムに取り込む」という作業に比べると、大幅に手間が省ける方法であることはおわかりいただけるでしょう。

3万円以上の場合は消費税に注意

ただし、データをデータのまま保存して領収書保存の代わりにするには、利用明細データは利用者が改変できない状態で保存されている必要があり、経費精算クラウドにも同様の条件で取り込まれなくてはならありません。なので、たとえば「利用履歴データをいったん手動でダウンロードし、経費精算システムに読み込ませる」といった方法は認められありません。決済事業者が持っている利用履歴データを、システムで直接、経費精算クラウドに取り込むことなどが条件です。

なお、取引金額が3万円以上になる場合には、消費税法との関係で注意が必要です。消費税の仕入れ税額控除の適用を受けるためには、領収書が交付されないなどのやむを得ない理由がある場合を除き、紙の領収書をもらって保存する必要があるからです。

CHECK!

領収書は、スキャンの日数制限に注意が必要です。ただし、キャッシュレス支払いでデータ連携すれば、領収書をスキャンする必要もなくなります。

3.経費精算クラウドサービス導入の注意点

値段だけで選ぶのは危険

電子帳簿保存法などにより電磁的記録による保存が認められているものには、ほかに以下があります。

・帳簿:仕訳帳、総勘定元帳、現金出納帳、売上帳、売掛金元帳、仕入帳、買掛金元帳、固定資産台帳 など
・決算関係書類:棚卸表、賃貸貸借表、損益計算書 など
・その他書類:見積書、請求書、注文書、契約申込書、納品書、検収書、注文書、契約書 など

本来なら、経費精算をデータ化・クラウド化するだけでなく、他の法定帳簿や書類もまとめてデータ化して保存するシステムを導入することも考えられます。

「これらのデータがすべて連携できると便利なのですが、1000万円以上の導入費用がかかります。中小企業ですとかけられる予算は50万~100万円程度のところが多いと思いますから、システムを連携しての一括管理は諦めて経費精算システムと会計システムをそれぞれに運用する(データの共有は可能)のが現状では現実的かもしれません。最近台頭しているクラウドサービスでしたら、月額3万円程度から利用できます。」

ただし、安さが売りのクラウドサービスは従業員数に応じた料金設定なので、中小企業にとっては有利ですが、大企業の場合は費用がかさむ可能性があることには注意が必要です。タイムスタンプ機能が別料金になっているサービスもあるので、慎重に比較検討しましょう。また、現在は価格競争で安値に設定されているが、ネットビジネスの定石として、顧客の囲い込みが終わり、シェア争いが落ち着いたら確実に値上げがあると見る専門家も少なくありません。低価格のサービスがこれからも安いままかどうかはわからありません。

「事業の継続性も気になるところです。クラウドサービスは、どこかにあるサーバーにデータを預けているわけです。それなりに値の張る国産のシステムにはデータ保証がありますが、それは国内の複数個所にサーバーを置いて常時バックアップを取るなどしてリスクに備えているからです。しかし、低価格のクラウドサービスですとデータの保証がない場合があります。電気代と維持管理との安い発展途上進国に汎用サーバーがあり、その空き容量を使っている会社があるとも聞いています。”データは格安でお預かりしますが保証はいたしかねます”というシステムの場合、自社でバックアップを取っておく必要があります。」

経費精算からデータ化を始めるのが無難

簡単にやめられない「プリントアウト」と「入力」の連鎖

また、文書のデータ化を始めるといっても、紙で行う業務が残っている以上、どうしても紙とデータを連携させるプリントアウトやスキャンといった作業が必要になります。

「ご存知のように、現在政府は”働き方改革”として、業務のIT化・効率化を推進しようとしています。各種書類の電子化はその中の大きな柱です。日本は先進国の中でもIT化・電子化が遅れています。たとえば稟議書はパソコンで作るのに、社内で決済を取るにはそれをわざわざプリントアウトして紙で回します。請求書はパソコンで作成するのに相手方に届ける時にはやはり紙に出力し、封筒に入れて切手を貼って、郵便で送るのです。それを受け取った相手方はその請求書を見ながら金額を社内のパソコンに入力して処理し、支払いが完了するとこんどは支払通知書をパソコンで作成し、またまた紙に印字して……とやるわけです。こんな非効率はないでしょう。」

業務の完全なデータ化には多額の費用を覚悟する

パソコンやタブレットで作成したデータは、紙を介さずデータのままやり取りする、あるいはクラウド上に置いて関係する人たちがリアルタイムに共有できるようになれば、業務の効率化は格段に進みます。また、そうしたデータが在庫や顧客動向と機能的に結び付けられれば、売上増や顧客満足度の向上にも役立てられるはずです。

「従来の紙の仕事の流れをそのまますべてデータに置き換えようとすると、専用のシステムを構築する必要があります。となるとオーダーメイドですから数千万円レベルの費用がかかります。中小企業だと相当の体力のあるところでないと、一気に取り入れるのは難しいでしょう。また、従業員が新しいやり方に慣れるまでの時間や、システムに不具合が生じた場合にどう対処するかも含めて、それなりの移行期間を要します。ゆえになかなか踏み切れないという会社が多いのです。」

本来業務の電子化は後回しにする

とはいえ、世間の潮流が文書のデータ化に舵を切っているのもまた事実。一気に全部を変えるのは無理としても、できるところから手を付けるのが現実的だと言えます。

「会社の業務には”本来業務”と”間接業務”があります。データ化をして目に見える効果が上がりやすいのは”本来業務”の方なのですが、会社によって本来業務の方法は異なるので、システム化にはどうしても多額の費用と時間がかかります。

ところが”間接業務”の方は業種業態を問わず、どこの会社でもだいたい同じ作業をやっているのです。たとえば経費精算では社員が一時的に立て替えて支払い、後日申請書に領収書を添付して、提出し会社に請求するという流れです。どこもだいたい同じということは、システムについても汎用品が使えます。導入コストもそれほど高くはありません。」

電子帳簿保存法に基づく領収書など法定文書のデータ化は、その保存方法に関する要件が法律で詳しく定められていてるので、一見手間がかかるようにも見えます。しかし、システムが電子帳簿保存法の求める要件をクリアしているかどうかは、要件を満たしたシステムに与えられる、スキャナ保存ソフトのJIIMA認証を取得しているかどうかを確認すればいいので、実はそれほど手間はかからありません。なお、JIIMA認証がなくても電子帳簿法の基準を満たしている製品はあるが、そうしたシステムを導入する場合は、自社が責任を持って確認する必要があります。

「データ化」はこれからどこへ向かうのか

「タイムスタンプ」がいらなくなる日

現段階では多くの中小企業が導入しやすいということで経費精算システムが話題になっており、中でも「領収書をスマホで撮影するだけで経費精算が完了する」「わずらわしい領収書が早々に処分できる」ということが関心を集めていますが、袖山氏は「政府が本腰を入れて取り組む電子化とは、紙の帳票をスキャンしてデータ化できるようにすることではありません」といいます。

「そもそも電子機器で作成したものを出力した紙をスキャンでデータにすること自体がナンセンスです。今どきはほとんどの紙が電子機器で作成されているわけですから、最初のデータ化はほぼできているわけです。それをそのままデータとして保存すれば不正が介在する余地は格段に減りますし、あったとしても検索・検証が容易です。いま政府が取り組んでいるのはそのためのルールと枠組み作り、データの連携活用による成長戦略の策定です。2020年の電子帳簿保存法改正で、キャッシュレス決済業者が保管する利用明細データが、領収書と同様に経費支払いの証拠として認められたのは、その一歩です。」

紙ベースであるものを電子データに変換するから「電子化」なのであって、最初からデータとして生み出された情報がデータとして処理され、連携活用されるようになれば、もはや「電子化」という言葉は死語になるかもしれありません。そしてその日は、確実に近づいています。社内文書のデータ化にあたっては、そういった将来像も頭の片隅におきつつ、現実的な電子化の方策を探っていく必要があるでしょう。

CHECK!

現在はペーパレス化の過渡期であるということを意識しながら、経費精算などの間接業務からクラウド化を進めるのが無難です。

【2022年1月】電子帳簿保存法改正のポイント

経費精算に使った領収書や帳簿は、原則として7 年間の保存義務があります。規模の差こそあれ、どこの会社にも領収書を入れた段ボール箱が積まれたスペースがあるでしょう。税務調査でもなければ決して開くことのない書類のために、オフィスの一角が死んでいるとしたら何とももったいないことです。しかし、「電子帳簿保存法」に基づいた手続きに沿った管理方法を導入すれば、今後はそれらを処分していくことが可能です。

また、最近はネットで物品を購入したり、契約書や請求書をペーパーレスでやり取りする機会が増えています。そうしたデータの保管はどうしているでしょうか? 1998 年に施行された「電子帳簿保存法」は、これまでも社会の趨勢に合わせて度々改正されてきましたが、2022年1月からDX(デジタルトランスフォーメーション)を一段と加速させる大幅な変更が加えられます。

今回の改正で帳簿保存のルールは「紙優先」から「デジタル優先」へと、大きく舵を切ることになります。社内の承認手続きやチェック体制の見直しも含め、デジタル化に切り替えるチャンスです。保存書類の電子化に関するポイントを、元国税局の情報技術専門官で、現在はSKJ総合税理士事務所所長の袖山喜久造氏に聞きました。

まずは現行の電子保存ルールを確認

経費精算は業界や業種が違っても、やっていることは大体同じです。従来のやり方は社員が経費を立て替えて支払っておき、後日、所定の用紙に日付/内容/金額を書き込み、領収書を添付して上長に申請するというものです。申請用紙は上長が承認すると経理部へ回り、経理部が承認すると、申請した社員に支払いが行われます。この申請用紙や領収書は基本的に7 年間、処分してはいけません(この紙ベースの保管ルールは今後も変わりません)。

近年、普及拡大しているのは、経費精算クラウド等による「スキャナ保存」(電子保存)です。経費を支払った社員(申請者)は受け取った領収書に自分の名前をサインして、スマホの経費精算アプリで撮影。するとOCR(文字認識機能)が日付/金額/支払先などの文字情報を読み取るので内容を確認し、追加で使途や相手先等の必要情報を記入の上「申請」のボタンを押す。申請内容はすぐにサーバーにアップされて「タイムスタンプ」※1を取得。その後、上長 経理部が申請を確認・承認し、問題がなければ申請者に支払われると→いう流れです。

※1 タイムスタンプとは…… ある時刻にその電子データが存在していたこと、それ以降に改変されていないことを、第三者機関のタイムスタンプ局(TSA)により生成されるハッシュ値により証明する技術。

スマホを使わない場合は、タイムスタンプが付けられる複合機(e-文書法対応スキャナ)で電子化する方法もありますが、いずれにせよ現行ルールでは、申請者は領収書を受け取ったら「概ね3 日以内」にデータ化する必要があります。ですが「概ね3 日」を過ぎてしまっても、申請者以外の二人(上長と経理部など)が領収書の現物の確認をする場合には「約2カ月以内」のデータ化が認められています。

なお、スキャナ保存を利用する場合には、事業年度が始まる3 カ月前までに管轄する税務署長の承認を得る必要があります(承認制度)。承認を得るには、入力や保存までの処理を二人以上で行う「相互けん制体制」、不備が発覚した場合に報告/原因究明/再発防止がなされる「不備の改善体制」が整っていること、第三者によって適正な入力が行われていないかどうかの「定期検査」も年1 回以上は行うことになっています。領収書の原本を廃棄するのは定期検査の後ですから、実際には経理部が申請者から領収書の現物を回収し、保管してあるところがほとんどだと思います。

2022年からの新ルールではこう変わる

では、2022年1月1日から施行される改正電子帳簿保存法では、何がどう変わるのでしょ
う? 主な改正のポイントは以下の通りです。
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承認制度の廃止 ・事前に税務署長の承認が必要 承認は不要
スキャナ保存要件の緩和 ・領収書にサインしてから電子化 サイン不要→
・概ね3日以内に電子化 約→ 2カ月以内でOK
・タイムスタンプが必要 要件を満たせば不要→ ※2
・定期検査の後に廃棄可 定期検査は必須ではない→
・データ検索機能の確保 検索項目数の緩和→ ※3
電子取引データの厳格な保存 ・紙に出力して保存可 紙に出力しての保存不可
罰則の強化 ・データ改ざん等の不正発覚の場合、重加算税+10%加重

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※2 期限内に入力され、経費精算クラウドなど訂正や削除の履歴保存及び内容が確認できるシステムが
使われていること。※3 取引年月日/取引金額/取引先名称の3項目に限定。ダウンロード等により検索
可能な場合は検索機能は不要。

特に「 ②スキャナ保存要件の緩和」によって、経費精算のワークフローはかなり簡略化されます。申請者は領収書を受け取ったら「約2 カ月以内」にデータ化すればよく、上長と経理が申請を承認すれば経費精算は完了します。年1 回の定期検査の実施も法令要件ではなくなったので、申請者がスマホ撮影した後すぐに領収書を捨ててしまっても、申請内容に
不備や不正がなければ問題は生じません。

「ずいぶんとやりやすくなるな」という印象を持たれる方が多いのではないでしょうか?ですが「適当でいける」ということではありません。

データ改ざん等の不正が発覚すると、申告漏れ等に課される重加算税35-45%は、さらに10%加重され45-55%になります。非常に厳しいペナルティです。また、国税関係帳簿書類や電子取引データについては、法令の要件に従った保存がなされていなければ、税法上保存義務がある帳簿書類として取り扱われません。その結果、青色申告や連結納税の承認を取り消されてしまう可能性もあるのです。

社内ルールの策定・運用が求められる

つまり「法令要件であれこれしなさいと規定する縛りは緩めますが、もし不正が発覚したら厳しく罰しますよ」ということです。会社は不正が行われないような社内ルールを自ら策定しなければなりません。

例えば、領収書をデータ化するだけで申請できると、撮影後の領収書原本は二重精算や他の人が「使い回す」ことができてしまいます。実際ネットの闇サイト?オークションサイトには、データ化して使用済みになったと思しき領収書が大量に出品されています。データ化の期限は「概ね3 日以内」から「約2 カ月以内」に延びましたが、日数が空くほどこうした不正が行われてしまう余地が増えてしまいます。

「ウチは真面目な社風だから、そんな不正をやる社員はいない」などと考えている経営者や経理担当者がいたら、そういう会社こそ気を付けるべきです。

最初は、悪意なく間違えた経費申請をしてしまっただけかもしれません。ところが、それが誰からのチェックも受けず、すんなり通って支払われた。そうなれば誰でも「ウチの経費申請ってその程度のものなんだ」と思うでしょう。そうした緩んだ空気は社内に蔓延します。経費申請はほとんどの社員がルール通りに行うものですが、1%でもズルをする社員がいれば会社全体の問題になってしまうのです。

税務調査、国税庁はここを見る

税務調査で国税庁の調査官が何を見るか知っていますか? 細かな経費精算の不正を見つけることを目的に、税務調査が入ることはあまりありません。経費の1 件ずつは額が小さいですし、裏取りも容易ではないからです。本当に調べたいのは業務処理の適否であり、契約や納品の方法、売上や仕入れの経常の仕方です。それでも数日に渡る調査の初期段階では、経費精算について詳細なチェックが入ることが多いのです。なぜでしょう?

経費精算は業界・業種を問わず、どの会社でもどの部署でも、全ての社員が日常的に行っています。どのくらいの頻度で経費精算が行われているか、提出された申請書をいい加減に処理していないか、不明点や書き間違いがあったときに社内でどういう対処をしているか等々、経費精算のやり方を見れば、その会社のコンプライアンス遵守度がだいたいわかります。「神は細部に宿る」と言いますが、ここで次々とボロが出るような会社は、他の経理処理でも問題を抱えている可能性が高いのです。

ですから、今回の改正でも「法令に定められていないからやらなくてよい」でないことはお分かりいただけると思います。領収書のデータ化期限は「約2 カ月以内」になりましたが、それをそのまま社内ルールに採用するのは適当ではないでしょう。業務サイクルに応じて可能な限り速やかな申請を促すルールにすべきです。

定期検査は法令要件ではなくなりましたが、領収書の画像が不鮮明だったり申請内容に疑問が生じた時、経理部は現物の領収書を確認しなくてはなりません。とすれば、紙の領収書は申請者の判断で捨ててよいとするのではなく、経理部でいったん回収して定期的に検査を実施した上で破棄するなどのルールが適当でしょう。

電子取引データを出力して保管してはいけない

今回もう1つインパクトの大きな改正点があり、それが「③ 電子取引データの厳格な保存」です。これまで電子帳簿保存法に対応できない会社に配慮して電子取引データを紙に出力して整理・保管することが認められてきました。しかし、2022年1月からは原則としてこれが許されません(ただし、「やむを得ない事情」がある場合は、2023年末まで電子取引データを紙に出力して整理・保管することを認める猶予措置が取られる予定です)。

ネットやメールでやり取りした電子取引データは、データのまま保管しなければなりません。電子取引データとは、EDI取引、ネット経由で受け取った見積書・請求書・契約書・納品書・領収書・その他取引書類、メールと添付書類、電子インボイス、支払決算データ、Web発行領収書、等々です。

例えば、ネット通販で物品を購入して領収書を求めた場合、メールで「こちらから Web発行の領収書(PDF)をダウンロードしてください」と、サーバーのURL アドレスが送られてくることがあります。

これまでは、ダウンロードしたPDF をプリントアウトして、紙の帳簿に整理・保管するのもありでしたが、それができなくなります。電子データの保管ルールに「取引年月日」「取引金額」「取引先」の3 項目で検索できなければならないとあるので、単に電子メールを取っておくだけでは要件を満たしません。文書管理システムや経費精算クラウドの導入は必須です。

紙で受け取った領収書も、スマホで撮影して電子データとなれば、以降はそちらが原本に代わるものになります。使い回し等の不正を防止する観点からも、きちんとデータ化されたことが確認された後は速やかに破棄しなければなりません。いつまでも紙を残しておいてはいけないのです。

加速するペーパーレス化に待ったなし

今回の改正は帳簿のペーパーレス化を、一段と推し進めるものです。これまではペーパーレス化とは名ばかりで、パソコンで作った契約書をメール添付の PDFで送り、先方はそれをプリントアウトして署名押印して返送、受け取ったらスキャンしてタイムスタンプを押してデータ化するといった極めてナンセンスな事務処理が行われてきました。ですがこの 1年でテレワーク/リモートワークが浸透し、脱はんこ・ペーパーレスに移行できる環境は急速に整いつつあります。

昨年、政府は持続化給付金を支給する際に前年の売上台帳の提出を求めましたが、零細企業や個人事業主に帳簿を付けていない事業者がかなりの数に上り、支給が大幅に遅れたり不正受給を許してしまったという苦い経験をしました。帳簿管理は少人数の事業者には負担ですが、電子帳簿システム(経費精算クラウドや会計ソフトのこと)を導入することで多くの部分を自動化できるようにもなっています。

この機を逃さずDX(デジタルトランスフォーメーション)を強力に推し進めようというのが政府の方針です。経費精算も電子帳簿システムに紐づけた電子マネーやクレジットカードで決済すれば自動で決済情報が取り込まれて、会計帳簿に記載されます。検索ができたり修正・削除の記録が残る要件を満たしたシステムであれば、それを以て支払いの事実が証明されるので支払い事実の確認は不要です。キャッシュレスで支払った決済データを活用した経費精算を行えば、入力事務が効率化され領収書等の改ざんもなくなります。

2023年秋からの「インボイス制度」に備えよ

さらに2023年10月1日からは「インボイス制度」が始まります。この制度ではあらかじめ登録した「適格請求書発行事業者」に対する支払分しか、仕入れ税額控除の適用を受けることができません。免税事業者への支払いに係る消費税は、支払う会社が消費税を負担することになります。現在も請求書/領収書に記載の消費税は10%と8%が混在しているため帳簿への入力作業は煩雑になっていますが、インボイス制度が始まると請求書/領収書を発行した事業者が「適格請求書発行事業者」か否かも確認しなければならなくなります。

しかも、現在は3 万円未満の仕入れであれば帳簿に要件を記載するだけで請求書や領収書なしで仕入税額控除ができますが、インボイス制度開始後はこの「3万円未満」の規定が廃止され、鉄道運賃や自販機での支払いを除いて、適格請求書がなければ原則として仕入税額控除ができないルールに変わります。

ただし、経過措置として免税業者からの仕入れはインボイス制度開始から 3年間(2026年10月まで)は80%、その後の3年間(2029年10月まで)は50%の仕入れ税額控除ができることにもなっています。ですが、例えば打ち合わせのために偶然利用した小さな喫茶店が、適格請求書発行事業者か免税業者かをいちいち確認するというのはあまり現実的とは言えません。

そこで経費精算クラウドや会計システムを導入して電子インボイス(適格請求書等保存方式に則った取引データ)を受け取るようにしておけば、品目別の消費税率やその対象金額、登録番号により事業者が適格請求書発行事業者か免税事業者かの判断を国税庁のデータベースに自動問合せして自動処理、免税業者であれば経過措置で何パーセントの仕入れ税額控除が適用できるかなど、すべてシステムの側で対応してくれるように検討が進められています。

経費精算クラウドを導入する好機

電子帳簿保存法はこれまでも度々改正が重ねられてきたというのは先述の通りです。最初は「紙による保存が原則」でしたが「紙で受け取ったものをデータで保存できる」になり、やがてそれが「データで受け取ったものを紙に出力して保存してもよい」に変わり、今回ついに「データでやり取りしたものは紙で保存してはいけない」になりました。紙からデータへという流れはもはや後戻りすることはなく、いずれは「データが原則」になるでしょう。

現在、紙とデータが混在している会社(ほとんどだと思いますが)は、電子取引やキャッシュレス決済の比率を高め、加速させていきましょう。電子帳簿システムの導入がまだという会社は、今回の改正を機に踏み切るべきです。早急に経費精算の申請とチェックの社内ルールを検討し、業務の効率化と適正な帳簿管理に向けて動き出してください。

取材・文=渡辺一朗 イラスト=タケウマ

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