専門家が教えるタレントマネジメントシステム選びの3つの軸

タレントマネジメントシステムを選ぶ際には、どのようなポイントに注目して製品を比較すると良いのでしょうか。

人事・採用分野のプロである株式会社人材研究所代表の曽和利光さんに話を聞きました。

曽和利光プロフィール写真

株式会社人材研究所 代表取締役社長
曽和 利光

リクルート人事部ゼネラルマネジャー、ライフネット生命総務部長、オープンハウス組織開発本部長と、人事・採用部門の責任者を務め、主に採用・教育・組織開発の分野で実務やコンサルティングを経験、また多数の就活セミナー・面接対策セミナー講師や情報経営イノベーション専門職大学客員教授も務め、学生向けにも就活関連情報を精力的に発信中。人事歴約20年、これまでに面接した人数は2万人以上。2011年に株式会社人材研究所設立。
著書等:「人と組織のマネジメントバイアス」、「コミュ障のための面接戦略」、「人事と採用のセオリー」、「悪人の作った会社はなぜ伸びるのか?人事のプロによる逆説のマネジメント」、「「ネットワーク採用」とは何か」、「知名度ゼロでも『この会社で働きたい』と思われる社長の採用ルール48」、「『できる人事』と『ダメ人事』の習慣」

――タレントマネジメントシステムを選ぶときは、どのような点に注目したら良いでしょうか?

特に重視したいのは次の3つの軸です。

【タレントマネジメントシステム選びの3つの軸】

(1)データ項目の可変性が高いかどうか
(2)分析に必要な指標を自動計算して必要な形式で取り出せるか
(3)シミュレーション機能が充実しているか

では、順に説明していきましょう。

(1)データ項目の可変性が高いかどうか

データ項目の「可変性」とは、あらかじめ設定されている以外のデータ項目をどの程度自由に変更したり設定したりできるかということです。

項目の追加設定自体はどの製品もできると思いますが、単に項目数を増やせるだけではなく、自社の人事業務で扱うデータに即して設定や改変ができるかどうかが、可変性を測る尺度になります。

例えば、評価を5段階の数字で行う企業もあれば、A~Eの5段階を基本にしてさらにSやSSを設けている企業もあります。また、評価も1種類ではなく「総合評価」と「個別評価」などのように、複数の評価軸を採用している会社もあります。

まず、初期状態のデータ項目が自社の運用内容にどの程度合致しているかに加えて、デフォルトにはないデータ項目やデータ形式にどれだけ対応できるかを確認する必要があります。

(2)分析に必要な指標を自動計算して必要な形式で取り出せる

分析に使う指標には、その企業独自のものと、どの企業にも共通するものがあります。後者にあたるのが、「離職率」「生産性」「評価分布」などです。人事が扱うこうした数値は、調査して得られた「観測値」を分析して算出したものがほとんどです。

例えば、人事業務で大きな意味を持つ「離職率」は、起算日の従業員数を分母に、設定した期間中の退職者数を分子にして計算されるのが一般的です。もちろんこれは難しい計算式ではありませんが、システム上で一から設定するとそれなりに手間がかかります。ですから、こうした一般的な指標を手軽にはじき出せるフレームワークが、どの程度システムに組み込まれているかが重要なポイントです。

また、こうした指標や分析結果は、人事会議や経営会議の重要な資料となりますから、グラフなどでビジュアル化したり、伝わりやすい形式で出力したりできるかもチェックしておきたい点になります。

分析の内容によっては、グラフなどで表示するよりもExcelの表で出力したほうが望ましい場合もありますから、CSV形式での出力も含めて、必要な形式でデータをアウトプットできるか確認しておくと良いでしょう。

(3)シミュレーション機能が充実しているか

――人事業務におけるシミュレーションとは、具体的にどういうものでしょうか?

人事業務には試行錯誤を行った「総量」が物を言う場面が意外にあります。例えば、新卒と中途とを何人ずつ採用するかを検討する場合です。それぞれの人数を変えて何通りかのパターンを組み、人件費や生産性などを試算します。

さらに複雑なのが人員配置のシミュレーションです。こちらもいろいろなパターンの人員の配置、組み合わせを検討するのですが、1人を動かすと、ところてん式に全員を動かさなければならないような事態もしばしば起こります。

戦略的に人事配置を行おうとすると、何度も試行錯誤を繰り返す必要があります。つまり、人事はシミュレーションのウエイトが非常に高い業務なのです。適材適所に人員を配置しようと考えるなら、シミュレーション機能はタレントマネジメントシステムの核であると言えます。

配置を例にとれば、従業員の属性や評価だけではなく、個々の性格や仕事に対する志向、従業員同士の相性などにも配慮して行うのが理想です。

こういったきめ細かい分析のソースとしては「SPI総合検査」など適性検査のデータが有効です。SPI検査自体はかなり前から利用されており、何十年分の新入社員のデータを蓄積している企業もありますが、紙で保管されたままになっており、人員配置戦略に全く生かせていないケースがほとんどです。

SPIデータなどと連動し、従業員の性格、志向、相性などを考慮してシミュレーションできるタレントマネジメントシステムは、現状ではまだ存在していないと思います。この辺りは、今後の発展が期待される領域でしょう。とはいっても、どの製品でも一定の条件に適合する従業員を抽出することはできるので、ある程度の配置シミュレーションは可能です。ですから、自社が求める抽出条件、あるいは行いたいシミュレーションをどれくらいカバーしているかをチェックすることが大切です。

また、ここで挙げた3つの軸すべてに共通することですが、自社の業務に適合するかどうかは、公式サイトに掲載されている情報だけでは判断できない場合もあります。資料を取り寄せたり、サービス提供会社に問い合わせたりして確認するようにしましょう。

人気タレントマネジメントシステム5製品の特徴と導入事例を紹介

ここからは、編集部がピックアップした人気タレントマネジメントシステム5製品を紹介します。それぞれの製品を導入している企業の評価も掲載しているので、ぜひ参考にしてください。

データ項目のカスタマイズ性が高い「カオナビ」

カオナビトップ画像
出典:「カオナビ」公式サイト(https://www.kaonavi.jp/)
公式サイト https://www.kaonavi.jp/
運営会社 株式会社カオナビ

【プラン料金(税込)】

 データベースプランパフォーマンスプランストラテジープラン
社員リスト
組織ツリー図
アンケート
ダッシュボード- 
料金要問い合わせ要問い合わせ要問い合わせ
※月額利用料は利用人数によって変動
※各種サポート・サービスのオプションあり。詳細は要問い合わせ

約2000社(2021年2月時点)が利用している人気のタレントマネジメントシステムです。

従業員プロフィールは基本情報10項目のほか、自社独自の項目を追加することができます。また、評価の項目や計算式を自由にカスタマイズできるので、これまで運用していた人事評価制度をシステム上で再現しやすいのも特徴です。

データを組み合わせて図表やグラフを表示する「ダッシュボード」は、複数の設定ができ、異なる2つの指標のグラフを同時に表示できます。

カオナビ「ダッシュボード」
出典:「カオナビ」公式サイト(https://www.kaonavi.jp/)

グラフデータをCSVで出力も可能ですが、グラフに使える指標は規定の一覧から選択する形式で、追加設定はできません

マトリックス上からドラック&ドロップで従業員データを組み替えながら人員配置のシミュレーションが行えます。この配置シミュレーションでは人員の組み替えによる人件費の変動も確認できます

カオナビ「人員配置のシミュレーション」
出典:「カオナビ」公式サイト(https://www.kaonavi.jp/)

カオナビのWebサイトには多数の活用事例が紹介されているので、そちらも参考にすると良いでしょう。無料デモ・無料トライアルの申し込みフォームもあります。

【導入事例】

◆選定の決め手

自社の評価制度をそのまま運用できて、過去のデータも移行しやすかったのでカオナビに決めました。

◆良かった点

1000人の従業員一人ひとりに目標や評価のファイルをメールで送り、回収し、一覧化する必要がなくなりました。カオナビを導入したことで、年間で120~140時間分の作業を削減できています

企業情報:ドラッグストアチェーン、従業員1000人超

◆選定の決め手

設定の自由度が高かったのが理由です。カオナビを導入したのは、社員数が急増中で人事制度を構築段階のときでした。組織編成が月単位で変わるため、自分たちで機能や項目の変更ができないと使いづらくなると懸念していました。検討したシステムの中ではカオナビが組織の変化に最も対応できる製品だと判断しました。

◆良かった点

社員同士のコミュニケーションが活性化しました。各社員の基本情報に「前職で何をやっていたか」「趣味」「夢」などの項目を作ったところ、共通項がある人や興味がある人を検索し食事に誘うケースが増えています。

◆改善を希望する点

初期設定は根気が必要で、1人ですべて行うのは大変です。オンラインの初期設定代行は有料で用意されていましたが、費用対効果がわからなかったので使いませんでした。テンプレートはありますが、システムの自由度が高すぎて設定作業の負担は大きいと思います。

企業情報:ITサービス、従業員300人規模

◆改善を希望する点

自由度が高すぎて、初期設定が大変でした。評価設定の代行サービスも用意されていましたが、約200万円と高額だったので利用しませんでした。

また、カオナビでは、細かい人事データの閲覧や編集権限の付与を、評価者と評価対象者の「1対1」でしか設定できません。ある社員の評価を直属の上司以外が閲覧できるようにするためには、別途設定が必要になります。

企業情報:デジタルマーケティング、従業員300人規模

「カオナビ」についてもっと知りたい方はこちら

導入事例から見るカオナビの評判|特徴や機能、プラン料金も解説

分析機能が充実している「タレントパレット」

タレントパレットトップ画像
出典:「タレントパレット」公式サイト(https://www.talent-palette.com/)
公式サイト https://www.talent-palette.com/
運営会社 株式会社プラスアルファ・コンサルティング

【料金(税込)】

料金要問い合わせ

従業員データベースには、基本情報のほか、適性検査の結果や研修履歴など多様なデータを蓄積できます。過去の異動回数や過去3年間の平均評価など時系列で確認が可能です。

システム上で行った分析を保存して、まとめてダッシュボードに表示できます。また、適性検査のデータやアンケートの回答、モチベーション情報なども蓄積も可能。定量データによる分析だけではなく、定性データを加えた分析も行えます

タレントパレット「社員ダッシュボード」
出典:「タレントパレット」公式サイト(https://www.talent-palette.com/

シミュレーション機能では、KPI(重要業績評価指標)を部署やチームごとに設定できます。また、組織ごとに必要な人材要件を設定して、最適な配置を自動算出し提示する機能があり、それをもとに配置を検討するというような使い方もできます。

タレントパレット「シミュレーション機能」
出典:「タレントパレット」公式サイト(https://www.talent-palette.com/

タレントパレットも公式サイトから出張デモンストレーションや、無料体験版の申し込みが可能です。

【導入事例】

◆良かった点

タレントパレットを導入したことで、プロジェクトの担当者が条件を満たした社員を自ら検索し、抜擢できるようになりました。希少な資格を持っているのに影に隠れていた従業員にも光が当たるようになりました

改善を希望する点

自社のデータベースと連携がしにくい点が不満です。苦労して作成したデータがそのままの形では読み込めず、データフォーマットを変えなければいけないケースがあり、作業が大変です。

企業情報:メーカー、2000人規模

「タレントパレット」についてもっと知りたい方はこちら

タレントパレットの評判・導入効果は?主な機能や料金も紹介

シンプルなUIで操作がしやすい「HRBrain」

HRBrainトップ画像
出典:「HRBrain」公式サイト(https://www.hrbrain.jp/)
公式サイト https://www.hrbrain.jp/
運営会社 株式会社HRBrain

【料金(税込)】

料金7万6780円~/月

HRBrainは使いやすいUIと操作性の良さに定評があります。

MBO(目標管理制度)やOKR(業績評価制度)など、人事評価制度の各種テンプレートが用意されています。

従業員プロフィールの項目は自由に追加できますが、人事評価項目のカスタマイズ性は高くありません。その分、汎用的でシンプルな作りになっているので、改めて人事評価制度を整えたい企業には向いています。

HRBrain「人事評価制度の各種テンプレート画面」
出典:「HRBrain」公式サイト(https://www.hrbrain.jp/

人員配置のシミュレーションは、顔写真をドラッグ&ドロップしながら行えます。ハイパフォーマーに共通する研修履歴や職歴を把握して、人材育成に役立てるための機能も備わっています。

HRBrain「人材配置設定画面」
出典:「HRBrain」公式サイト(https://www.hrbrain.jp/)

初期設定から運用が軌道に乗るまで専任スタッフのサポートが受けられるのも魅力です。公式サイトのフォームで資料請求ができます。

【導入事例】

選定の決め手

カスタマイズ性、見やすさ、使いやすさの3点で優れていると感じました。アンケート機能や性格診断機能が追加される予定と聞いたので、システムの伸びしろを感じました。

◆良かった点

画面が見やすく、Excelより使いやすいです。Excelを使用していたときはフォーマットが部署やチームごとに違っていたのですが、統一できたので管理が楽になりました。査定メンバーの進捗状況なども素早く確認できます。

◆改善を希望する点

実装予定の機能を早く実現してほしいです。

企業情報:広告代理店、1000人規模

「HRBrain」についてもっと知りたい方はこちら

HRBrainは操作性が抜群|注目機能や料金、利用者の評価も紹介

組織診断サーベイや1on1機能も備わっている「HRMOSタレントマネジメント」

出典:「HRMOSタレントマネジメント」公式サイト(https://hrmos.co/hr/)
公式サイト https://hrmos.co/hr/
運営会社 株式会社ビズリーチ

【料金(税込)】

 データベースプランスタンダードプランプロフェッショナルプラン
社員リスト
目標・評価管理
1on1レポート
組織診断
カスタマーサポート
プロフェッショナルサポート
料金要問い合わせ要問い合わせ要問い合わせ

ハイクラス人材の転職サービス会社「ビズリーチ」が提供するタレントマネジメントシステムです。

過去の組織体制の変遷や従業員の異動履歴などのデータを蓄積できますまた、サーベイ機能が備わっており、組織の状態や従業員のエンゲージメント(愛着、思い入れ)を可視化することも可能です。

HRMOS「サーベイ機能」
出典:「HRMOSタレントマネジメント」公式サイト(https://hrmos.co/hr/)

評価シートは役割や役職に応じてカスタマイズができるほか、1on1機能では、メンバーの目標や過去の実施記録を確認し上司がフィードバックできるようになっています。

HRMOS「1on1機能」
出典:「HRMOSタレントマネジメント」公式サイト(https://hrmos.co/hr/)

システム導入の際は、専任の担当者が付きます。導入から運用までをスムーズに行うための体制が整えられています。

【導入事例】

◆良かった点

過去の人事評価をデータベースから取り出し、振り返りができて便利です。人事関連の情報は「定性分析」になりがちですが、HRMOSによって、数値データに基づいて定量的に判断ができるようになりました。機能のアップデート頻度も高いと思います。

◆改善を希望する点

データ入力に手間がかかります。CSVで一括入力はできるのですが、CSV形式のデータ作成に時間を取られます。

企業情報:ITサービス、従業員100人

独自の技術で作業工数を削減し、人事評価の質を高める「あしたのクラウド」

あしたのクラウドトップ画像
出典:「あしたのクラウド」公式サイト(https://cloud.ashita-team.com/)
公式サイト https://cloud.ashita-team.com/
運営会社 株式会社あしたのチーム

【料金(税込)】

料金要問い合わせ

人事評価システムを主軸にして、従業員データベースから目標設定、評価、査定、給与確定までを行えます。

AIによる社員の目標添削や、各評価者の評価が適正かどうかをチェックする評価者モニタリングなどの独自機能が特徴です。

あしたのクラウド「AI機能」
出典:「あしたのクラウド」サービス紹介動画(https://www.youtube.com/watch?v=y1ZJeOxhrZc&t=107s
あしたのクラウド「評価者モニタリング」
出典:あしたのチーム公式YouTubeチャンネル(https://www.youtube.com/watch?v=tT9PfkMcT8g)

サービスを提供するあしたのチームには「ゼッタイ!評価」という製品もあります。これは、同社の認定コンサルタントによるサポートを受けながら、クラウド上で人事評価制度を一から構築できるサービスです。

「あしたのクラウド」と合わせて活用すれば、効率的な人事評価制度の構築・運用ができるので、設立して間もないスタートアップ企業や、人事制度がうまく機能しておらず根本的な見直しを図りたい企業に特に向いている製品と言えます。

【導入事例】

選定の決め手

ネットで情報をリサーチし、「あしたのチーム」製品の評価が高かったので導入を決めました。

◆良かった点

人事評価データの整形作業にかかる時間が減りました。以前は、データベースから各従業員の目標を取り出しメールなどで送っていたのですが、今は「システム上で確認してください」ですむのでとても楽です。

◆改善を希望する点

自社の評価制度を再現できると思ったのですが、実際に運用してみると設定の自由度はそれほど高くありませんでした。Excelのデータをそのままインポートできず、フォーマットを変更する必要がありました。UIもあまりよいと思いません。

企業情報:コンテンツマーケティング、200人規模

「あしたのクラウド」についてもっと知りたい方はこちら

あしたのチームの特徴やプランを詳しく解説|導入企業の評価も紹介

タレントマネジメントシステム導入するメリットは?

タレントマネジメントシステムを導入する企業は増えていますが、どのようなメリットがあるのでしょうか。曽和さんに詳しく伺いました。

――初めに、「タレントマネジメント」と「タレントマネジメントシステム」とは何を指しているのか教えてください。

「タレントマネジメント」を端的に言うなら、「従業員それぞれの能力を最大化すること」です。そして、それを実現するためのツールが「タレントマネジメントシステム」になります。

日本の企業は人材の採用には力を注いできましたが、採用した人材を活用することにはあまり目を向けてこなかったというきらいがあります。

しかし、個々の従業員の能力が発揮されないと、そもそもチーム力の向上は見込めないわけです。さらに、少子高齢化によって人材不足は深刻化していくと考えられます。特に「優秀な人材」についてはその傾向が強く、世界的にハイパフォーマーが不足しているという調査報告もあります。

ですから、これからは有能な人材の育成と、一人ひとりが活躍できるための人材配置が重要になります。

――ここ最近、タレントマネジメントシステムへの注目度が特に高まっている理由は何ですか?

もちろん一番の理由は「人事業務の効率化」です。加えて、「適材適所」の人材配置を実現したいという要望が強くなっていることも大きいと思います。

Google社やMicrosoft社が利用している、いわゆる「ピープルアナリティクス」という概念も知られるようになってきていますね。これは、従業員に関するデータを多角的に分析して、人事や組織づくりをしていこうというものです。

日本の場合、明確な根拠がないままに人員を配置している企業が多いのですが、GoogleやMicrosoftでの事例が知られるようになるにつれて、従業員データベースを活用して科学的に人員配置を行おうという流れが生まれ、タレントマネジメントシステムが注目されるようになっているという解釈もできます。

――タレントマネジメントシステムを導入するメリットは何ですか?

おもなメリットは次の3点です。

【タレントマネジメントシステムの導入メリット】

(1)人事業務の工数を削減し、スピーディーな施策実行を実現できる(2)組織状態のモニタリングを常時行える(3)適材適所の配置で社員の能力を最大化できる

(1)人事業務の工数を削減し、スピーディーな施策実行を実現できる

まず、データの転記作業をほぼなくすことができます。人事評価でよくあるのが、各部署から送られてきたExcel形式の評価シートの内容を、集計用のシートに転記する作業です。従業員数が100人を超えると、これだけでも相当な時間と手間がかかります。

タレントマネジメントシステムなら、クラウド上で共有される同一のシステムを全員が使えるので、評価者が各自データを入力すれば自動で同期されます。

次に、評価内容の集計と評価の割り付けが格段に楽になります。「Sクラスが全体の○%」「Aクラスが全体の△%」など、あらかじめ評価分布を設定しておけば、それに従って自動で集計が行えます。もちろん割合などの設定を変えることも可能です。

そもそも人事の本来の業務は、集計などの作業ではなく、集計した結果を基に「その先」を考えることでしょう。会社の業績に応じて評価分布を変えるならそれぞれの評価クラスの割合をどうするかを議論するなど、業績改善のための「人事施策の立案と遂行」こそが最重要のコア業務です。システムの導入で作業の工数を大幅に減らしてスピードアップできれば、コア業務により時間を割くことができるようになります。

(2)組織状態のモニタリングを常時行える

人事データを一元管理できるので、担当者が随時モニタリングを行い組織状態を把握しやすくなります

従業員の基本情報に加え、「採用」「育成」「評価」「報酬」「配置」など、人事では多様なデータを扱っています。タレントマネジメントシステムではそうした複数のデータを相関させて、図表やグラフなどで表示するダッシュボード機能があり、部署の人員構成や報酬の分布などといったデータを即座にモニタリングできます。

また、エンゲージメントサーベイなどを実施し従業員のコンディションを管理することで、注意が必要な状況をいち早く把握して、適切な対策を取ることができれば、休職や離職などによる組織へのダメージを減らせる可能性があります。ですから、モニタリング機能は、組織運営において非常に価値が高いと考えています。

(3)適材適所の配置で社員の能力を最大化できる

タレントマネジメントシステムを導入する最大の意義は、適材適所の配置にあります。

人材の配置や評価には「勤続年数」「職歴」「業績」「資格」「業務スキル」「適性」などさまざまな要素が関係しています。それらを数値化して整理・分析することで、指定した条件に合う従業員を抽出し、グループ化できるようになります。

例えば、新規プロジェクトのメンバーを選んだり、部署を改編したりする場合に、この抽出機能を使ってシミュレーションを行うことで、最適な人員配置が可能になります。

ハイパフォーマーが特定の部署に偏らないようにしたり、反対にハイパフォーマーを1つの部署に集めたりといったシミュレーションもできます。つまり、あらゆる配置についてシステム上でテストして検討することができるのです。

さらに、有能なのに埋もれている人材を発掘したり、誰にどのようなスキルを身につけさせればハイパフォーマーを育成できるかを検討したりするときにも、タレントマネジメントシステムが役に立ちます。

日本の企業では、客観的なデータに基づく人員配置が行われていないケースがまだまだ多く見られます。タレントマネジメントシステムの導入は、いわば「客観的なデータに基づく人員配置」への転換を図る絶好の機会にもなるのです。

「自社の人材を活用できていないと感じている企業」、もしくは「人材をもっと有効に活用したいと考えている企業」は、ぜひタレントマネジメントシステムを検討すべきです。

クラウド型のシステムは進化が速く、絶え間なくアップデートされるので、常に最新の状態で運用できるのも魅力です。適材適所の配置シミュレーション機能についてもさらに進化していくことが期待できます。

まとめ

人事は企業の経営戦略上、非常に重要なセクションです。タレントマネジメントシステムは、人事業務を効率化し、「適材適所の人員配置」など、人事のコア業務を充実させるだけではなく、企業の運営そのものを強力に下支えするツールとなる可能性を秘めています。

従業員一人ひとりの能力とチーム力の両方が最大限に発揮される組織の実現を目指すなら、タレントマネジメントシステムの導入を検討してみてはいかがでしょうか。

タレントマネジメントの記事一覧

上に戻る