森本さん

【この記事に登場する有識者】

森本商店 店長
森本 伸夫さん

日立ソフトウェアエンジニアリング(現日立ソリューションズ)で約30年間にわたりメインフレームのOS関連製品の設計・開発、企業のグループウェア導入、クラウド統合化支援などを手掛ける。タクトシステムズ株式会社コンサルティング部部長などを経て、2006年から個人事業主「森本商店」として活動。
また、戦略コンサルタントとして北海道ニセコ倶知安町観光協会の戦略立案などを支援。北海道大学と琉球大学の非常勤講師を歴任。
電子契約サービスの「DocuSign」「クラウドサイン」「GMOサイン(旧GMO電子印鑑Agree)」などの販売に関わる。現在は「Zoho(ゾーホー)」認定パートナーとして、Zoho製品の導入を支援している。

電子契約サービス選定の4つのポイント

数ある電子契約サービスの中から、どうやって自社にあった製品を見つけ出したらよいのでしょうか。

これまでに「DocuSign」「クラウドサイン」「GMOサイン(旧GMO電子印鑑Agree)」「Zoho sign」などの電子契約サービスの販売や導入支援をされてきた、森本商店店長の森本伸夫さんに、製品選びのポイントについて伺いました。

──電子契約サービスはどのような点に注目して選ぶとよいのでしょうか?

次の4つの軸で製品を比較するとよいでしょう。

  1. 「当事者型」と「立会人型」
  2. ワークフロー機能
  3. CRMシステムとの連携
  4. 海外企業の導入実績

それぞれ解説していきます。

(1)「当事者型」と「立会人型」

【こんな企業は要チェック】

当事者型
 ⇨実印相当の証明力を求める企業
◆立会人型
 ⇨一定の法的効力を求めつつ、サービス利用の負担を極力抑えたい企業

電子契約サービスには、「当事者型(当事者署名型)」と「立会人型(事業者署名型)」の2種類があります。

「当事者型」の契約では、第三機関である電子認証局が厳格に本人確認を行った上で、電子証明書(書面取引における印鑑証明書にあたるもの)を発行します。一方の「立会人型」は、当事者の指示に基づいて電子契約サービスの提供者が電子署名を付与する仕組みになっています。

どちらも法的効力は認められていますが、当事者型認証には実印相当の信頼性があるとされており、「証明力」はより高いといえます。その半面、当事者型は両者が同じ電子契約サービスを利用している必要があるので、相手に負担がかかります。一方、立会人型は本人確認がメールで行われることが一般的であるため、相手が同じ製品を利用している必要がなく負担が少なくてすむのがメリットです。

法的効力をより重視する契約であれば当事者型の方が向いていますが、そういった場合は相手が紙の契約書を求めてくるケースがほとんどです。ですから、相手が電子契約を認めている場合には、立会人型でも問題になることはほぼないでしょう。

日本国内の電子契約サービスには当事者型と立会人型の両方がありますが、世界的には立会人型が主流になっており、Google、IBM、マイクロソフトなどの名だたる企業も、立会人型電子契約サービスの「DocuSign」を利用しています。

(2)ワークフロー機能

【こんな企業は要チェック】

・社内の承認フローが複雑な企業

電子契約サービスにおける「ワークフロー機能」とは、社内で定められた手順に従って契約書の承認を進めるための機能を指します。この選定軸が重要になるのは、社内の承認フローが複雑な企業です。自社の承認フローに対応できない製品だと、契約締結までに時間がかかりますし、手続きの滞留が起きやすくなってしまいます

大半の製品には備わっている機能ではありますが、規定の承認フローには対応できないものもありますので注意してください。そのような場合は、他のワークフローシステムと連携させる方法もあります。

(3)CRMシステムとの連携

【こんな企業は要チェック】

◆CRMシステムを導入している企業
◆契約先が多い企業(物流・小売系企業など)

CRMシステム(顧客管理システム)を導入している企業は、そのシステムと連携できるかも重要なポイントになります。

電子契約サービスと連携できれば、CRMシステム上から契約書作成の申請を行い取引先へ送れます。CRMシステムにある作成ボタンを1クリックするだけで、契約書のフォーマットに契約者名が記入され、登録されている顧客のメールアドレスに契約書が送られるという流れです。

契約書はCRMシステム内にも保存される仕組みになっていて、履歴管理が可能。作業工数が減り、契約締結までにかかる時間を短縮できます。特に、スーパーマーケットのように取引先や仕入先など契約の相手が多い物流・小売系の企業などでは、連携効果が大きくなるでしょう。

(4)海外の企業の導入実績

【こんな企業は要チェック】

◆海外企業と取引がある企業

海外企業と取引がある場合は、グローバルな製品を選択した方がよいです。日本国内だけで使われている製品は、海外企業が認知していないため信頼されず、契約に支障が出る場合があるためです。海外企業との契約が多い企業は、世界的にシェアがある製品を選んでおくことで、契約がスムーズに進められるでしょう。

電子契約サービス4製品を比較|導入企業の評価も紹介

ここからは、森本さんに教えていただいたポイントをもとに、編集部がピックアップした電子契約サービス4製品を紹介していきます。導入企業の評価もお伝えするので、ぜひ参考にしてください。

【比較一覧表】

クラウドサイン電子印鑑GMOサインDocuSignAdobe Sign
月額料金(税込)1万1000円~

送信料220円/件
9680円~+送信料金110円〜/件16.5ドル(約1798円※)~4270円~
電子契約のタイプ立会人型当事者型/立会人型立会人型当事者型/立会人型
契約相手のアカウント登録不要当事者型は必要/立会人型は不要不要不要
ワークフロー機能
CRM連携SalesforceSalesforceSalesforceSalesforce、Microsoft Dynamics 365、Zoho CRMなど
海外企業の導入実績
無料プランありあり
多言語対応4言語2言語14言語(署名は44言語)36言語
※1ドル=109円で換算

【製品の特徴とおすすめ企業】

クラウドサイン電子印鑑GMOサインDocuSignAdobe Sign
特徴機能がシンプルで使いやすい。相手への負荷が小さい当事者型と立会人型どちらにも対応世界シェアNo.1。海外企業からの信頼度が高いワークフロー機能が充実。海外でも利用企業が多い
おすすめ企業
・海外企業との取引がない企業
・契約数が1ヶ月5件以下の中小企業、個人事業主
・実印相当の法的効力を求める企業・当事者型と立会人型を使い分けたい企業・海外企業と取引がある企業
・海外企業と取引がある企業
・承認フローが複雑な企業

シンプルな機能で使いやすい「クラウドサイン」

クラウドサインキャプチャ
出典:「クラウドサイン」公式サイト https://www.cloudsign.jp/
クラウドサイン
公式サイト https://www.cloudsign.jp/
運営会社 弁護士ドットコム

【製品情報】

月額料金(税抜)1万1000円〜
電子契約のタイプ立会人型
ワークフロー機能「ジョブカンワークフロー」と連携あり/ビジネスプラン以上では承認権限設定可能
CRMシステム連携Salesforceなど
海外企業の導入実績
契約相手のアカウント登録不要
無料プランあり(ユーザー数1人、送信件数が月5件まで)
おすすめ企業・相手に負担をかけたくない企業
・初めて電子機契約サービスを導入する企業

「クラウドサイン」は日本最大級の弁護士ポータルサイト「弁護士ドットコム」が運営する電子契約サービスです。立会人型の製品で、Salesforceと連携できます。東京商工リサーチの調査によると、2020年3月末時点で国内の電子契約サービスを利用している企業の約8割がクラウドサインの利用登録しているなど、日本国内で圧倒的な支持を得ています。

【導入企業の評価】

A社(IT通信/社員数60人程度/管理部マネージャー/2019年6月〜)

※インタビュー実施日:2021年5月19日

【導入の決め手】

一部のベンチャーキャピタルと投資家から電子契約を希望されたため、無料で使える製品を検討しました。クラウドサインには、月5件までなら無料で使えるプランがあったので導入しました。

【クラウドサインのおすすめポイント】

月5件までなら無料で利用できます。1ユーザー5件なので、2人登録すれば月10件になります。月あたりの契約件数が少ない企業や、スタートアップ企業に向いている製品だと思います。

【クラウドサインに対する不満】

無料プランは、1ヶ月に発信できる上限が5件、他のメンバーにアカウント付与はできないなどの制限があるため、注意が必要です。

B社(ITソフトウェア/社員数200人程度、バックオフィス担当/2019年6月〜)

※インタビュー実施日:2021年5月24日

【導入の決め手】

取引先で導入している企業が多かったのでクラウドサインに決めました。

【クラウドサインのおすすめポイント】

督促がしやすいです。紙の契約書でやりとりしていたときは、先方の担当者にスルーされてしまうことがあり、回収率が7〜8割程度でした。クラウドサインは、相手に自動でリマインドメールを送信できます。また、メールのCCに入っているメンバーにも、リマインドや契約完了の通知が届くので、ステイタスの把握がしやすいです。現在はほぼもれなく回収できています。

【クラウドサインに対する不満】

中国や韓国の企業と契約を結ぶ際にクラウドサインを利用したら、相手に断られてしまいました。海外での知名度が低いため、相手に信用してもらえません。リマインドメールも日本語ですし、外国企業との取引には向かないと思います。

「当事者型」と「立会人型」どちらにも対応できる「電子印鑑GMOサイン」

電子印鑑GMOサインキャプチャ
出典:「電子印鑑GMOサイン」公式サイト https://www.gmosign.com/
電子印鑑GMOサイン(旧GMO電子印鑑Agree)
公式サイト https://www.gmosign.com/
運営会社 GMOグローバルサイン・ホールディングス

【製品情報】

月額料金(税込)9680円~
電子契約のタイプ当事者型/立会人型
ワークフロー機能オプション(ワークフロー固定機能)
CRMシステム連携Salesforce
海外企業の導入実績
契約相手のアカウント登録当事者型では必要、立会人型では不要
無料プランあり(立会人型、署名数が月5⽂書まで)
おすすめ企業・海外企業との取引がない企業・契約数が1ヶ月5件以下の中小企業、個人事業主

電子印鑑GMOサイン(旧GMO電子印鑑Agree)は、グループ内の認証局運営企業を通して「当事者型認証」を提供しているのが特徴です。プランは「契約印&実印プラン」の1種類で、必要な機能をオプションで追加できます

「立会人型契約」の場合、契約を交わす相手は電子印鑑GMOサインのユーザーである必要はなく、メールアドレスがあれば契約締結が可能です。一方、「当事者型認証」で契約を行う場合には、両社が同サービスを利用している必要があります。

【導入企業の評価】

A社(IT通信/社員数60人程度/管理部マネージャー/2020年11月〜)

※インタビュー実施日:2021年5月19日

【電子印鑑GMOサインのおすすめポイント】

電子印鑑GMOサインは、1件あたりの送信料がクラウドサインよりやすいです。また、相手が同じ製品を導入していなくても利用できるので手軽ですね。

【電子印鑑GMOサインに対する不満】

相手が捺印だけして、署名欄に何も記入せず返送してくることがよくあります。クラウドサインの無料プランを使っていたときはあまりなかったので、見落としやすい仕様なのかなと思います。

それと、相手から送られてきた契約書は権限者しか確認できず、署名者にいちいち再送しなくてはいけないのが手間です。

世界シェアNo.1「DocuSign(ドキュサイン)」

Docusignキャプチャ
出典:「DocuSign」公式サイト https://www.docusign.jp/
DocuSign(ドキュサイン)
公式サイト https://www.docusign.jp/
運営会社 ドキュサイン

【製品情報】

月額料金(税込)16.5ドル(約1798円※)~
電子契約のタイプ立会人型
ワークフロー機能あり
CRMシステム連携Salesforce
海外企業の導入実績
契約相手のアカウント登録不要
無料プラン
おすすめ企業・海外企業と取引がある企業
※1ドル=109円で換算

米国発の電子契約サービス「DocuSign」は、海外でのシェアと知名度が抜群で、FacebookやUberなどの名だたるグローバル企業が採用していることでも知られています。CRMシステムのSalesforceと連携が可能。Salesforce上から契約書の作成・送信の手続きを行ったり、Salesforce内に契約書を保存したりできます。

◆森本さんの一口メモ

グローバルにビジネスを展開しているなら、世界的に知名度が高く電子契約サービスとして信頼が厚い「DocuSign」がおすすめです。ただし、国内においては気軽さやわかりやすさが重視されることもあるので、「クラウドサイン」などと使い分けるのも一つの方法でしょう。

【導入企業の評価】

B社(ITソフトウェア/社員数200人程度、バックオフィス担当/2020年1月〜)

※インタビュー実施日:2021年5月24日

【導入の決め手】

シンガポールの子会社では、東南アジア諸国企業との契約が多かったため、海外での導入実績が豊富なDocuSignに決めました。また、日本本社ではクラウドサインをメインに利用していますが、海外企業と取引がある部署ではDocuSignを導入しています。

【DocuSignのおすすめポイント】

海外企業からの信頼が厚いと思います。クラウドサインを利用していたときは、外国企業に契約を結んでもらえないことがありました。

【DocuSignに対する不満】

海外の製品ということもあってか、システム内で日本語が不自然なところがあります。また、DocuSignはユーザー1人あたりの料金が決められており、利用する人数が多くなると高額になってしまうのが不満です。

ワークフロー機能に優れ、海外でも利用企業が多い「Adobe Sign」

AdobeSignキャプチャ
出典:「Adobe Sign」公式サイト https://acrobat.adobe.com/jp/ja/sign.html
Adobe Sign
公式サイト https://acrobat.adobe.com/jp/ja/sign.html
運営会社 アドビ株式会社

【製品情報】

月額料金(税込)4270円~
電子契約のタイプ当事者型/立会人型
ワークフロー機能あり
CRMシステム連携Salesforce、Microsoft Dynamics 365、Zoho CRMなど
海外企業の導入実績
契約相手のアカウント登録不要
無料プラン
おすすめ企業・海外企業と取引がある企業・承認フローが複雑な企業

世界標準規格のPDFを開発したアドビ社の電子契約サービスで、DocuSignと同様に海外での知名度が高い製品です。ワークフロー機能に強みがあり、ワークフローの自動化や、ワークフローのテンプレート作成などが可能です。また、SalesforceやZoho CRMなどとの連携も可能で、さまざまなカスタマイズができる高機能製品ですが、その分使いこなすためにはリテラシーも必要です。

【導入企業の評価】

C社(マーケティング/社員数100人程度/管理部マネージャー/2020年11月〜)

※インタビュー実施日:2021年5月20日

【導入の決め手】

クラウドサインも検討したのですが、海外企業との取引もあったためAdobe Signに決めました。

【Adobe Signのおすすめポイント】

契約が完了すると自動で電子証明書が発行されます。誰がいつサインしたかが記録されているので、後に何かあった場合に備えておけます。

また、契約書を送信したメールのCCに入っていた人にも契約完了の通知が届くので、情報共有の手間が省けます。

認者や承認フローを自由に設定できるのも便利です。私の会社では、代表が署名し終わると自動で取引先に送信されるように設定しています。

【Adobe Signに対する不満】

「Adobe Signは使ったことないから」と、相手に断られたことがあります。取引先が日本企業なら、クラウドサインの方が好まれると思います。

電子契約サービスを導入するメリットは?

ここまで電子契約サービスの選び方や人気製品の特徴について解説してきましたが、そもそも電子契約サービスを導入するメリットにはどのようなものがあるのでしょうか? 森本さんに話を聞きました。

──電子契約サービスを導入するメリットについて教えてください。

おもなメリットは次の3つです。

【電子契約サービスのメリット】

  1. 契約締結までの時間を短縮できる
  2. コストが削減できる
  3. 契約の管理が楽になる

(1)契約締結までの時間を短縮できる

1つ目のメリットが、契約締結までの期間を短くできることです。

紙の契約書の場合、担当者が申請→上長が承認印を押す→経理が見積金額を確認して承認印を押す→実印担当者が契約書に押印→社長が決裁印を押す→総務が紙に出力して印紙を貼り郵送する…といった作業が必要でした。取引先が海外企業の場合だと、郵送した契約書が相手に届くまでに1週間以上かかることもあります。

電子契約サービスを使うと、一つひとつの作業にかかる時間を短縮できるだけでなく、特に時間がかかる契約書の郵送が不要になります。企業によって異なりますが、多くは作業時間を従来の半分以下まで削減できるでしょう。

(2)コストが削減できる

電子契約サービスを使えば、契約書の印刷費、封筒代、郵送費、人件費などのコストが削減できます。また電子契約だと印紙税がかからないのも大きな特徴です。契約件数や契約金額によっては、かなりの額の印紙税を削減できます。

ケース1:広告請負に関する契約書、年間契約件数100件、契約金額200万円超え〜300万円以下の場合
紙の契約書:100件×印紙税1000円=10万円
電子契約サービス:0円
年間10万円削減
※印紙税の金額は国税庁公式サイト「印紙税」を参考
ケース2:不動産売買に関する契約書、年間契約件数100件、契約金額1000万円超え〜5000万円以下の場合
紙の契約書:100件×印紙税2万円=200万円
電子契約サービス:0円
年間200万円削減
※印紙税の金額は国税庁公式サイト「印紙税」を参考

これは一例にすぎません。印紙税は契約書の種類と金額によって変わります。詳しくは、国税庁公式サイト「印紙税」を確認してください。

(3)契約書の管理が楽になる

契約書は、法律で定められた期間、原本を保存しておく必要があります。そのため、紙の契約書だとファイリングの手間や保管スペースの確保でコストが発生しますし、必要な契約書を探し出すのに手間がかかります。

電子帳簿保存法に対応している電子契約サービスであれば、デジタルデータでシステム内に保存できますから、ファイリングの手間もありませんし、保管場所も不要です。契約内容を確認したい場合には、検索機能を使って必要な契約書をすぐに取り出せるので管理が楽になります。

まとめ

電子契約サービスを導入することで、契約作業の効率化やコスト削減が見込めます。この記事で紹介した電子契約サービス選びのポイントを参考に、自社に合った製品を検討してみてください。多くの製品は無料トライアルが用意されているので、利用してみるとよいでしょう。

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