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【この記事に登場する有識者】
株式会社オロ
顧客支援グループ シニア導入コンサルタント
枇榔弘樹さん
応用情報技術者。1974年兵庫県生まれ。1999年同志社大学商学部を卒業後、飲食店のホールスタッフに従事。2004年から2008年まで、人材派遣業、飲食業の経理に従事。連結8社(売上140億円)の連結決算と税務を任される。2008年から株式会社オロでERPパッケージ「ZAC」の営業と導入支援に携わり、60社を超える企業への導入を支援してきている。現在は、株式会社オロの顧客支援グループで導入コンサルタントの本業と並行し、個人事業としてシステムの選定支援、業務効率化の支援などの活動をしている。
業種別におすすめERPを紹介
ERP導入コンサルタントの枇榔弘樹さんが、製品選びにおいてもっとも重要だと指摘しているのが、「その製品がどの業界・業種に特化しているか」です。そのポイントに基づき、編集部が選んだおすすめ製品を紹介します。
IT・システム開発業、広告業なら「ZAC」
公式サイトURL:https://www.oro.com/zac/ 運営会社:株式会社 オロ |
【料金】
要問い合わせ
【特徴】
- 複数の案件や契約、プロジェクトを同時に管理できる
- 仕入、勤怠(工数)、経費などのデータを、案件ごとに集約してコスト管理ができる
- 受注前の見込・引合の段階からプロジェクトの予想収支を立てられる
- モジュール(機能単位)ごとに購入できる
ZACは、特に「管理機能の精度の高さ」がユーザーに評価されている製品です。また、導入企業のニーズに合わせて、パッケージするモジュール(機能単位)を柔軟に変更できるのも特徴です。
まずは、必要最小限のモジュールでスタートし、事業の拡大や業績に応じて機能を追加していくことができます。
「ZAC」ユーザーに多い業種は、「IT・システム開発業」「広告・イベント・クリエイティブ業」「士業・コンサルティング業」などです。業種別ソリューションの特徴としては次のようなポイントが挙げられます。
【業種別ソリューションの特徴】
<IT・システム開発業> 開発プロジェクトの工程管理、損益管理が一元的にできる <広告・イベント・クリエイティブ業> 前受請求など業界特有の商慣習に対応し、キャッシュの流れと損益の計上を個別に管理でき、期間損益を正しく把握できる <士業・コンサルティング業> 案件別に従業員の稼働時間を集計・分析することで、アサインの最適化を図れるとともに、経費精算業務を効率化できる |
小売業なら「NetSuite」
公式サイト:https://www.netsuite.co.jp/ 運営会社:日本オラクル株式会社 |
【料金】
要問い合わせ
【特徴】
- Eコマース構築プラットフォームがある
- 中小企業から大企業までを対象とする製品で世界の2万6000社が採用している
- プラットフォーム「OneWorld」は、複数の言語や通貨、各国の税制にも対応している
NetSuiteには、受注管理、在庫管理、財務管理、Eコマースなどの機能が備わっており、小売・サービス業に適している製品です。
CRM(顧客管理システム)とEコマースを連携すると、顧客の購買行動と売上、商品の在庫状況などがリアルタイムで把握できます。それらのデータを分析することで、さらに上位商品の購入を促したり、関連商品を勧めたりなど、顧客への働きかけをより迅速かつ適切に展開することが可能になります。
特に、実店舗での販売に加え、Eコマースも展開している企業や、これからEコマースに取り組む企業、あるいは販売のオムニチャネル化を進めている企業におすすめです。
建設業なら「imforce 建設業統合基幹モデル」
公式サイト:https://www.nttdata-bizsys.co.jp/imforce/service/construction.html 運営会社:株式会社NTTデータビジネスシステムズ |
【料金】
要問い合わせ
【特徴】
- 建設業の業務フロー「引合~受注~工事・発注・支払~財務・決算」までを一元管理できる
- ビジネスアプリケーションの開発自動化ツール「Biz ∫ APFワークベンチ」機能がある
- 物件単位で工事履歴や瑕疵・クレーム情報を管理できる
NTTデータビジネスシステムズが提供するクラウドERPにおいて、建設業に特化している製品が「imforce 建設業統合基幹モデル」です。
「imforce 建設業統合基幹モデル」の見どころは、ビジネスアプリケーションの開発自動化ツール「Biz ∫ APFワークベンチ」が組み込まれていること。これにより、設計情報を基に機能を自動で生成できます。
このほか、工事物件の引き合い段階から、売上・粗利を自動でシミュレーションしたり、着工段階で実行予算原価と月別の支出予測(見込原価)を管理し、工事単位で粗利見込額を把握したりすることもできます。
さらに、物件単位で、工事履歴、瑕疵(かし)、クレームなどの情報を一元で管理する機能や、人事給与管理機能などもオプションで用意されています。
製造業なら「GRANDIT」
公式サイト:https://www.grandit.jp/ 運用会社:GRANDIT株式会社 |
【料金】
要問い合わせ
【特徴】
- 原材料の流れを追跡できるトレース機能を搭載
「GRANDIT」の業界別導入割合は、製造業が4割以上を占めています。
製造業にとって重要な生産管理システムを標準搭載しており、「設計~受注~生産~販売~会計」の業務を一元管理できます。それにより、内示受注や確定受注の情報を基に生産計画を立てたり、必要な部品・資材を過不足なく調達したりなど、生産業務の効率化が図れます。
製造業では、製品に何かしらの問題が出たときにその原因をつきとめるため、「いつ・どこで・誰によって作られたのか」がわかるようにしておくこと(トレーサビリティ)が重要です。この点、「GRANDIT」では、「クレーム発生時の発生要因調査」と「不良品検出時の影響範囲調査」の両方向の追跡が可能です。
さらに、物流・製造現場の情報をリアルタイムに把握し共有できるので、在庫管理の精度や物流品質の向上が図れます。
あらゆる業界に対応する「OBIC7」
公式サイト:https://www.obic.co.jp/ 運営会社:株式会社 オービック |
【料金】
要問い合わせ
【特徴】
- 7つの業種別にソリューションが提供されている
<業種>
- 製造業・設計業務
- 商社・卸/運輸・物流
- 小売業
- サービス業
- 建設工事業
- 不動産関連業
- 金融業
「OBIC7」の特徴は、それぞれの業種・業態に合わせて提供されているソリューションのバリエーションが多様であることです。
例えば、小売業の「外食チェーン向け統合システム」では、営業管理、食材センター管理、勤怠管理を含む店舗システム、さらにはサイトや企業間取引ECサイトの構築を行うインターネット・Webシステムなどの機能が備わっています。
ただし、自社の業務フローとの適合性や使いやすさなどは、事前にしっかりと確認する必要があります。
ERP選定のポイント
ERPはEnterprise Resource Planningの略で、企業が持つ資源(ヒト・モノ・カネ・情報)を一元管理し、適切かつ有効に活用するという考え方です。これに基づき、分立する基幹システムを統合したものがERPと呼ばれています。

ERPを選定する際のポイントとして、枇榔さんが挙げるのは次の4つです。
【ERP選定のポイント】
- 製品が特化している業界
- 従業員規模
- 自社の現行システムとの連携
- 導入サポートの充実度
それぞれ詳しく伺いました。
製品が特化している業界
――ERPを選ぶ際のポイントを教えてください。
まずは、検討するERPの機能が、どのような業界や業種に特化しているかを見極めることです。
ERPには特定の業界をターゲットとしている製品が多く、備わっている機能が異なります。別の業界に特化した製品を導入すると、うまく使いこなせず、期待する効果が得られなくなってしまいます。
例えば、製造業に特化した製品であれば生産管理の機能が備わっていますが、小売業向けの製品であれば、商品を作るわけではないので生産管理の機能は重視されません。建設業であれば、手形や電子記録債権(手形や売掛債権を電子化したもの)といった、業界特有の商慣習の決済方法を用いることがあるので、それに対応できるかが重要になります。
――自社の業界を得意とした製品を選ぶとことが重要なのですね。
自社の業界にあった製品を選ぶと、現行の業務に馴染みやすく、社内にも早く浸透するというメリットもありますね。
理想としては、製品をノンカスタマイズで導入できることですが、その会社特有の業務フローや慣習などもありますから、ジャストフィットとはなかなかいきません。
製品で想定されている業務フローと、自社の業務フローのフィット率が75%以上であれば、無理なく運用していけるでしょう。残りの25%は、システムに合わせて業務を見直すなどの対処でカバーできます。
フィット率を判断するのはなかなか難しいので、現行業務フローの再現性がどの程度かを、検討時に各社の営業担当者に聞いてみるとよいでしょう。
従業員規模
2つ目のポイントが従業員規模です。
製品によっては、ターゲットとする会社の規模を定めているものがあります。
例えば、株式会社オロが提供する「ZAC」が想定しているのは従業員が50人を超える企業ですが、その廉価版である「Reforma PSA」だと従業員数50人以下の企業がメインになります。「Reforma PSA」は、「ZAC」で培われたクリエイティブ系ビジネスにおける業務管理のノウハウをコンパクトに凝縮してコストダウンを実現しています。
ERPの初期費用や運用コストは決して安くないため、収益規模や従業員数と勘案して、製品の費用対効果を検討する必要があります。
自社の現行システムとの連携
3つ目のポイントがすでに導入しているシステムとの連携です。
現行の基幹システムを継続して運用する場合には、それらとデータ連携がスムーズにいくかを見極める必要があります。
既存のシステムとの連携がうまくいかないと、データをExcel形式で取り出し成形してから共有するなどの手間が生じるので、ERPを導入する意味が小さくなってしまいます。
導入サポートの充実度
4つ目のポイントが導入サポートの充実度です。
ERPは、社内にシステム管理の専門部署があるか、専任のシステムエンジニアが何人かいないと、導入サポートなしに運用まで行うことは困難です。
導入サポートといっても、コンサルティング、導入企業に合ったパッケージの提案、運用のモニタリングや修正など、製品によって内容が異なります。企業担当者向けにセミナーを開催していたり、導入・運用プロセスの解説動画を配信していたりする製品もあるので、公式サイトなどをよく確認するようにしましょう。
クラウドERPの導入メリットと導入効果が大きい企業の特徴
ここまで、ERP選定のポイントやおもな製品の特徴を解説してきましたが、そもそもERPを導入するメリットは何なのでしょうか? また、導入効果が大きいのはどのような企業なのでしょうか? 枇榔さんに伺いました。
ERP導入のメリット
――ERPを導入するメリットを改めて教えてください。
もっとも大きいのは、部門・部署、あるいは拠点をまたぐ場合でも、業務が分断されずに行えることです。基幹システム間のデータ連携がスムーズになるので、データ共有にかかる工数も減らせます。
ERPは、自社のサーバにシステムを構築して運用するオンプレミス型から、クラウド型に需要が切り替わってきています。クラウドERPのメリットは以下の3点が挙げられます。
【クラウドERPのメリット】
- 導入期間とコストを削減できる
- 社外からシステムを活用できる
- セキュリティが強化できる
メリット① 導入時間とコストを削減できる
オンプレミス型と違って、自前で機器を購入し社内に設置する必要がありません。機能のアップデートやシステムのメンテナンスも運営会社によって行われます。オンプレミス型より導入から運用までにかかる期間が短く、低コストで導入・運用できます。
メリット② 社外からシステムを活用できる
インターネットにアクセスできる環境があれば、いつどこからでもシステムを操作できます。出社しなくても業務が行えるので、リモートワーク環境下でも生産性の向上につなげられます。
メリット③セキュリティを強化できる
情報漏洩などのリスクに備えて、社内ではなかなか実現できないような高度なセキュリティ対策が各運営会社によってとられています。
ERPの導入効果が大きい企業
――ERPの導入効果が大きいのはどのような企業でしょうか?
おもに以下の4つが考えられます。
【ERPの導入効果が大きい企業】
- 内部統制を強化しなければいけない企業
- 業務が属人化している企業
- 複数の基幹システムをすでに導入している企業
- 複数の基幹システムの導入を検討している企業
①内部統制を強化しなければいけない企業
新規公開株の準備をしている企業などは、内部統制をきちんと行う必要があります。ERPは業務の手順やルールを明確にしたり、案件別に業務・会計を管理したりできるので、内部統制にも有効です。
②業務が属人化している企業
ERPシステムを導入すると、システムの機能にあわせて業務が標準化されるので、これまで属人化していた業務の改善が図れます。ブラックボックスを作らず、担当者が変わった場合でも引き継ぎがしやすいというメリットもあります。
③複数の基幹システムをすでに導入している企業
複数の基幹システムを利用している場合だと、データ連携がシームレスにできなかったり、システムごとにアカウントを作りパスワードを管理したり、登録されている情報に変更があった際に各システムの関連データをそれぞれ修正しなくてはいけなかったりと、手間がかかります。
ERPであれば、マスターデータを修正すると他の関連データにも反映されます。そのため、修正漏れなどが起こりにくく、リアルタイムで最新のデータが可視化されるので、素早い経営判断が可能になります。
④複数の基幹システムの導入を検討している企業
前述の通り、複数の基幹システムの運用だと、データの連携や管理の工数が増えます。
1つの基幹システムを導入する場合よりコストが高くなりますが、企業規模が大きくなり運用するシステムの数が増えるほど管理が大変になるので、先を見据えて最初からERPを導入していた方がよかったケースが少なくありません。長期的な視点でみると、コストの削減にもつながります。
中小企業におけるクラウドERPの重要性と導入時の注意点
ERPの導入には多大なコストがかかるため、なかなか踏み切れない中小企業は多いでしょう。それだけのコストをかけても、ERPを導入するメリットはあるのでしょうか?
中小企業にとってのERP導入の意義や注意点について、枇榔さんに伺いました。
中小企業にとってもERPが重要な理由
――中小企業もERPを導入した方がよいのでしょうか?
下記の理由から、中小企業にとってもERPの導入効果は大きいといえます。
【中小企業もERPを導入した方がよい理由】
- バックオフィスの業務効率化による人件費を削減できる
- 業務の数値化とその「見える化」、リアルタイムの分析と対処が可能になる
- 部門別採算、プロジェクト別採算による赤字要因の把握と損益の改善が図れる
- 利益に直結したコア業務に集中できる
企業の使命は事業を成長させることであり、それは中小企業も変わりません。継続的に業務をチェックし、よりコア業務に集中できる体制づくりをサポートするのがERPの役割です。事業規模を拡充し、成長スピードを上げていくことは、中小企業の重要な課題であり、それを実現するために有効なのがERPだといえます。
中小企業がERP導入の際に気をつけるべきポイント
――中小企業がERPを導入する際に注意すべきことはありますか?
◆製品の選定にあたって
ERPの導入・運用には中長期的な視野が必要です。さしあたっては、中期経営計画の実施期間にあたる3年~5年のレンジで、自社をどのように成長させていくのか、どの程度の事業・人員の規模を見込むのかといったことを検討しておく必要があります。
そして、その将来像に対応する機能を持つERPを選ぶことが重要です。
◆導入にあたって
システムの導入はゴールではありません。システムをうまく活用することが大切です。
ERPの機能に合わせて業務を標準化させていくことにより、データが蓄積され、集計・分析が可能になります。そのため、多少時間をかけても、システムの意義と運用方法を社内に浸透させることが大切です。
◆企業の規模別に見た場合
【50人前後の企業規模】
従業員規模のあまり大きくない企業がERPを導入する場合、システムへの投資額を抑えようとする傾向があります。そうすると、導入支援サービスが充実していない製品を選んでしまい、導入の段階でつまずいてしまうケースがよく見られます。
導入サービスが充実していない製品だと、従業員の教育、稼働準備、社内問い合わせ対応などを自前で行わなければなりません。導入のためのプロジェクトチームを編成する必要性なども出てきます。50人前後、あるいはそれ以下の企業では、そうした業務に人的リソースを確保するのは、かなり難しいと思われます。
どこまでコストをかけられるかにかかってはきますが、できるだけ導入支援サービスが充実している製品を選びましょう。
【100人以上の企業規模】
従業員数が100人を超える規模の企業が全社でERPを導入すると、運用の負荷が1つの部門に集中したり、ある部署から「使い勝手が悪い」などとクレームが噴出したりして、部門・部署間の対立が起きやすくなります。
100人を超える規模の企業では、部門・部署間の調整に努める人員や体制の準備をしてから導入するのがよいでしょう。
ERPシステムとは?ベンダーが答えるERPに関するQ&A
最後に、ERPに関してよくある疑問について、枇榔さんに回答していただきました。
ERPとは基幹システムに分類される各種システムを統合したものです。
ERP(Enterprise Resources Planning)は、直訳すると「企業資源計画」であり、「企業が持つ資源(ヒト・モノ・カネ・情報)を適切に配分し、有効活用しよう」という考え方です。この考え方に基づいて、企業の資源となるデータや情報を1カ所に集め、有効活用するための「統合基幹システム」を、一般的にERPと呼んでいます。
基幹システムとは、販売管理、購買管理、生産管理、会計管理など、業務の遂行や経営にかかわる中心的なシステムを指します。この基幹システムを統合するものがERPなのです。
下図のように、ERPを導入することで、バラバラになっている基幹システムのデータベースなどを、統合的に扱えるようになります。
導入前から導入後では下記のような変化があります。
<導入前> 部門や業務ごとに基幹システムが分立し、連携していない状態
<導入後>基幹システムが統合され、データ連携や分析が可能な状態
【ERPの導入前と導入後のイメージ】
このように、各部門から別々に異なるデータベースに入力されていた情報を一元管理し、リアルタイムに分析していくことが可能となります。
「現行業務のやり方でシステム上でもそのまま再現しようとする企業」です。
現行の業務を全く同じ方法でシステム上でも行おうとすると、自社固有のシステムとして開発する必要があり、保守・メンテナンスのコストがかかります。さらに事業を拡大したり、業務のやり方を変更したりした際に、都度システムを再構築しなければならないので、さらにコストがかかります。システムがうまく稼働していても、費用対効果の観点で失敗してしまうケースがあります。
導入を成功させるには、現行の業務フローにこだわろうとはせず、ERPに業務フローを合わせる、という発想が重要です。ERPの導入を機会に、見直せる業務は見直して、業務の標準化、手順やルールの統一化を図っていくことで導入効果はより大きくなるでしょう。
まとめ
ERPは、全社的な業務の効率化や生産性の向上を実現し、企業の中長期的な成長を下支えするシステムです。製品を選ぶ際には、自社が所属する業界に特化したものを選ぶことが特に重要です。この記事で紹介したポイントを参考に、自社に最適なシステムを選びましょう。