【この記事に登場する有識者】
株式会社オープンエイト データアナリスト
前側 将さん

1992年北海道生まれ。データ分析ツールを使ったコンサルタント、Pontaカードやヤフーなどのビッグデータを扱う企業にてデータアナリストを経験。ヤフー株式会社ではBIツール「Tableau」の活用コンサルティングや分析サポートを行い、社内での教育活動も行う。2020年からは動画制作ツールVideoBrainを扱う株式会社オープンエイトの筆頭データアナリストとして、データ基盤の開発やデータ分析など幅広い業務を手掛ける。 また、BIツールに関する情報を発信するYouTubeコミュニティ「BIツール研究所」を主宰し、データ可視化の実践と普及に日々まい進中。監修を行った「『BIツール』活用 超入門 Google Data Portalではじめるデータ集計・分析・可視化」(秀和システム)が2021年11月下旬に発売。
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BIツールについて基礎から知りたい方はこちら

BIツールとは?|おもな機能や検討時の留意点をわかりやすく解説

専門家が教えるBIツール選定のポイント

前側さんは、BIツールを選定する際に注意すべきポイントはおもに3つあるといいます。それぞれのポイントについて詳しく伺いしました。

【BIツール選定の3つのポイント】

  1. 「セルフサービス型」かそれ以外か
  2. 「レポーティング機能」と「データ探索機能」
  3. コストは予算内か

「セルフサービス型」かそれ以外か

【ポイント】

・多くの企業に向いているのはセルフサービス型
・専任データアナリストやエンジニアが在籍し、大量のデータを素早く処理したいならLookerがおすすめ

現在多くの企業で「セルフサービス型」のBIツールが導入されています。

BIツールが普及し始めたのは、IT機器の性能が飛躍的に向上し、「セルフサービス型」が登場した2010年頃です。「セルフサービス型」は、現場担当者が自分でデータを取得して可視化できる、つまり“セルフサービス”で利用できるシステムという意味で、製品では「Tableau」「MotionBoard」「Qlik Sense」「Power BI」などが該当します。現在の主流はセルフサービス型です。

クラウドサービスの利用が普及し始めた2015年頃からは、DWH(データハウス)の性能が向上し、最初からDWHにデータの集計を任せる製品も増えてきました。代表的な製品としては「Looker」などが該当します。

ただし、このタイプの製品はデータの一元管理を行うために、専門知識のあるエンジニアやシステム部門が必要で、初めて導入するBIツールとしてはハードルが高いです。セルフサービス的な使い方というよりは、エンジニアがデータを統制する中央集権的な運用が必要となるツールです。

その点、セルフサービス型のBIツールならデータを手軽に分析してグラフや表の形でビジュアル化できる仕様になっているので、利用者にプログラミングやデータ解析の知識がなくても十分に使えます。まずはセルフサービス型のBIツールを導入することをおすすめします。

セルフサービス型のBIツールを活用していく中で、管理者のデータエンジニアリングスキルが向上したり、会社としてより高速・効率的にデータを可視化していきたいという要望が出てきたら、Lookerなどの導入を検討すればよいでしょう。

「レポーティング機能」と「データ探索機能」

【ポイント】

・BIツールのおもな機能は、「レポーティング機能」と「データ探索機能」
・レポーティング機能を重視なら、リーズナブルな「Power BI」や表現が多彩な「Tableau」
・「MotionBoard」は定型帳票機能が強み
・「Qlik Sense」は分析機能が優れておりデータ探索に最適

──では、セルフサービス型の製品を選ぶとして、どういった項目や観点で製品を絞り込めばよいのでしょうか?

BIツールで「何をするか」の部分に注目しましょう。BIツールのおもな機能は「レポーティング機能(データをわかりやすく可視化する機能)」と「データ探索機能」の2つです。どちらを重視するかがポイントになります。

もちろん、どの製品も両方の機能を備えており、製品同士の差もそこまで大きくはありません。それでも、やはり製品ごとの特徴はありますので事前に調べておきましょう。

レポーティング重視なら「Power BI」「Tableau」

データをグラフや表で可視化する「レポーティング機能」を重視するのであれば、リーズナブルで導入しやすい「Power BI」や、ビジュアルの表現が多彩で、グラフを複数重ねたり、グラフの上に文字を入れたりとレイアウトの自由度が高い「Tableau」がおすすめです。

利用部門でデータを確認できれば十分というのであれば、メールやSlackにレポートを送信する機能に優れている製品を選ぶのもよいでしょう。

定型帳票出力なら「MotionBoard」

定型帳票を出力したいというニーズがあるなら、国産BIツールの「MotionBoard」がおすすめです。MotionBoardは帳票のカスタマイズ性が高く、データの入る場所などをあらかじめフォーマットに作成しておけます。この定型帳票機能は他の製品があまり得意としていない部分ですね。

データ探索、分析なら「Qlik Sense」「Tableau」

データ探索を重視する場合なら、「Qlik Sense」や「Tableau」がよいでしょう。

データ探索とは、例えばマーケティング部門で、商品や顧客を細かく分類しながら分析していくような使い方です。「どのようなお客さんがどの商品を買ったか」など、BIツール上でデータを自由に切り替えながら閲覧していくことができます。

Qlik SenseとTableauはデータ探索の操作性に優れています。特に、データを自由に探索したい場合は、複数のデータを自動的に関連づけて分析が行える「連想技術」を搭載した「Qlik Sense」がおすすめです。

コストは予算内か

【ポイント】

・比較的リーズナブルに利用できるBIツールは「Power BI」「Google Data Portal」など

──セルフサービス型製品の利用料金にはどのような違いがあるのでしょうか?

「Power BI」はMicrosoftのBIツールで、「Microsoft 365」を導入していれば、プランによっては追加料金なしで使えることがあります。

Amazonの「Amazon QuickSight」やGoogleの「Google Data Portal」も同様で、既に契約しているプラン内に含まれていたり、安価な追加料金で使えたりします。

なお、無料のBIツールとしては、「Redash」や「Metabase」といったオープンソースの製品もありますが、利用するにはSQLなどデータベースの仕組みについて理解しておく必要があり、運用難易度は高いといえます。

Power BIをまずは検討して、「よりこだわったレポートを作成したい」という場合は、料金はやや高くなりますが「Tableau」を検討してみるとよいでしょう。

BIツールには無料の製品もありますので、コスト面で導入ハードルを感じる方はこちらの記事がおすすめです。

BIツール無料のアイキャッチ

無料のBIツールについて知りたい方はこちら

無料BIツール9選比較!有料ツールとの違いは?オープンソースも紹介

BIツールおすすめ5製品を比較

ここまで説明した3つの選定ポイントをもとに、前側さんがおすすめしてくれた製品を紹介します。それぞれの特徴や料金プランもお伝えするので、ぜひ参考にしてください。

【おすすめBIツールのポジショニングマップ】

BIツールのポジショニングマップ

コストを抑えたいなら「Power BI」

Power BIキャプチャ
出典:「Power BI」公式サイト https://powerbi.microsoft.com/ja-jp/
Power BI(パワービーアイ)
公式サイト https://powerbi.microsoft.com/ja-jp/
運営会社 Microsoft

【プラン料金】

プランPower BI ProPower BI Premium
ユーザー単位
Power BI Premium
容量単位
月額利用料金1ユーザーあたり1090円1ユーザーあたり2170円54万3030円~
※料金はすべて税込

こんな企業におすすめ】

・初めてBIツールを導入する企業
・Microsoft 365など、Microsoft製品を導入している企業

Microsoftの製品だけあって、ExcelなどMicrosoft 365のアプリとの連携がスムーズです。データをExcelで分類・保管している企業は多いので、この点は製品の大きな強みです。

データをクラウドストレージの「Azure Data Lake Storage」に収納し、クラウド上で解析がスピーディーに行えます。もちろん、クラウド上のデータは、Microsoftのセキュリティ技術で守られます。

初期費用は無料、手軽な利用料金で充実した機能が使えるのが特徴です。

◆前側さんの一口メモ

データの可視化や分析など、一通りの機能はそろっています。最初に導入するBIツールとしておすすめの製品です。

表現力が多彩な「Tableau」

Tableauキャプチャ
出典:「Tableau」公式サイト https://www.tableau.com/ja-jp
Tableau(タブロー)
公式サイト https://www.tableau.com/ja-jp
運営会社 Salesforce

【プラン料金情報】

プランTableau Creator
(フル機能版アカウント)
Tableau Explore
(ビジュアル化機能を一部利用可能)
Tableau Viewer
(閲覧専用)
Tableauクラウドサーバー1ユーザーあたり11万2200円1ユーザーあたり6万6000円1ユーザーあたり2万4200円
オンプレミスサーバー11万2200 円5万1000円1万9800円
※プランは年間利用料金
※料金はすべて税込

こんな企業におすすめ】

・「Power BI」よりもう一歩踏み込んだ使い方をしたい企業
・ビジュアル化機能が豊富なBIツールを使いたい企業

Tableauの特徴は、なんといっても表現力の多彩さです。高度なビジュアライゼーションを可能にする「VizQL」の技術を備えており、グラフの種類が豊富でクオリティが高いと評判です。

分析機能も充実しており、総合点の高いオールラウンドな製品といえるでしょう。会社の規模や業種に関わらず、多くの企業で導入されています。

◆前側さんの一口メモ

Tableauはレポーティング機能と分析機能、どちらも優れている製品です。Power BIよりもう少し予算を出してもよいと考えているなら、有力候補でしょう。

定型帳票を重視するなら「MotionBoard」

MotionBoardキャプチャ
出典:「MotionBoard」公式サイト https://www.wingarc.com/product/motionboard/
MotionBoard(モーションボード)
公式サイト https://www.wingarc.com/product/motionboard/
運営会社 ウイングアーク1st

【プラン料金】

プランクラウド版、パッケージ版
利用料金初期費用11万円
月額費用3万3000円~
※料金はすべて税込

こんな企業におすすめ】

・定型帳票機能を重視する企業
・IoTのデータを連携したい企業

MotionBoardは定型帳票機能が強みです。各種レポート用のフォーマットを作って、データを流し込むことが可能です。

また各種データベースやクラウドサービスにあるデータをリアルタイムに集約して、「ダッシュボード」に一覧表示できます。データを取り込んだ後に修正が発生した場合は、ダッシュボードからマスターデータを更新可能です。

◆前側さんの一口メモ

IoTとのリアルタイム連携機能を搭載しているので、製造業などIoTデータの活用を行いたい企業にもおすすめです。

データ探索を重視するなら「Qlik Sense」

Qlik Senseキャプチャ
出典:「Qlik Sense」公式サイト https://www.qlik.com/ja-jp/products/qlik-sense
Qlik Sense(クリックセンス)
公式サイト https://www.qlik.com/ja-jp/products/qlik-sense
運営会社 Qlik

【料金プラン】

プランQlik Sense BusinessQlik Sense Enterprise SaaS
1ヶ月あたりの利用料金1ユーザーあたり30ドル(参考価格)要問い合わせ

こんな企業におすすめ】

・データ探索に力を入れたい企業

Qlik Senseの最大の強みは特許技術である「連想技術」です。この技術によって、複数の情報源から取り込んだ同じIDのデータを自動で関連づけて分析が行えます。例えば、売上管理システムや顧客管理システムなどのデータを、自動的に連動させて処理してくれます。これによって、さまざまなデータを多角的に掛け合わせて、ユーザー分析や購買分析が行えます

◆前側さんの一口メモ

Qlik Senseは連想技術とデータ加工の自由度の高さが特徴マーケターがアドホックなデータ探索をする場合などにおすすめです。

膨大なデータを処理できる「Looker」

Lookerキャプチャ
出典:「Looker」公式サイト https://ja.looker.com/
Looker(ルッカー)
公式サイト https://ja.looker.com/
運営会社 Google Cloud

【料金プラン】

プラン利用料金要問い合わせ

【こんな企業におすすめ】

・大量のデータを分析したい企業
・事業規模が大きく、大がかりなシステムが必要な企業

Google系列のツールだけあって、Google AnalyticsやGoogle広告とのデータ連携がクイックに実現できます。最大の特徴はデータ定義の管理・メンテナンスが行いやすい点です。同じ定義であれば1ヵ所変えると、それ以外の箇所やその定義に関係するすべての項目も即時反映されるようになっています。

単にデータを「ビジュアル化」するだけでなく、実践的な分析を目的にして導入する企業が多い製品です。特に扱うデータの種類が多かったり、企業規模が大きかったりするほど、メリットを感じやすいといえます。ただ、有効に活用するためには、データやシステム運用の担当者に専門知識が求められます。

◆前側さんの一口メモ

さまざまなシステムと自動連携ができるため、エンジニアから人気を得ている製品です。

BIツール導入のメリットとは?

そもそも、BIツールを導入するメリットは何なのでしょうか?

前側さんは次の3つをあげてくれました。

【BIツールを導入するメリット】

  1. データの収集・管理が楽になる
  2. あらゆる種類のデータを自動で可視化・シミュレーションできる
  3. データのアウトプットが簡単にできる

データの収集・管理が楽になる

【ポイント】

・データを自動で収集できる
・CRMシステムやMAツールなど、外部システムとの連携が可能
・さまざまなサービス媒体からデータを取り込み、分析が行える

──BIツールを導入するメリットについて教えてください。

まずデータの管理が楽になります。BIツールを導入して、最初に設定をすませておけば、データが自動的に更新され、グラフや表にも反映されます

経営者から「このデータの詳細が知りたい」と急な問い合わせがきても、データは自動で最新のものに更新されているので、あわてる必要がないわけです。毎月・毎週のように行っていた集計作業の負担がなくなることが、最初に得られるメリットでしょう。

また、CRMシステムやMAツールといった外部システムとの連携も可能です。ほかにも、TwitterやYouTubeなど、いろいろなサービス・媒体からデータを取り込んで分析が行えるようになります。

あらゆる種類のデータを自動で可視化・シミュレーションできる

【ポイント】

・売上、顧客情報、コスト、人事データなどさまざまなデータを分析できる
・マーケティングやプログラミングの知識がなくても、直感的に操作できる
・簡単なシミュレーションも可能

ビジネスで使うあらゆるデータを分析できるようになることも、BIツールを導入するメリットです。

全社のKPI(重要業績評価指標)である売上や顧客の情報を可視化するためだけではなく、マーケ部門では広告料金を、総務部門では会計データを可視化するために利用したりと、利用部署を拡大してデータ活用に成功している企業もあります。

興味深い活用法としてはタレントマネジメントでしょうか。従業員の人事データを可視化して、適材適所の人員配置や離職分析を行ったりするために活用している企業もあります。

ほかには、プリンターのログデータをBIツールに取り込んで、月々のコストを管理をするような使い方もあります。「最近この部署でプリンターの利用が増えている」とか、「カラー印刷が多すぎる」などといった情報をグラフで簡単に確認できます。

最近はデータを可視化するだけでなく、簡易的な予測シミュレーションができる製品も多く登場しています。またデータを統計処理して、クラスター分布を自動で作成したり、顧客の属性情報ごとに色分けした分布図を作成したりといったことも、ワンクリックで実行可能です。代表的なのは「Exploratory」という製品です。

データのアウトプットが簡単にできる

【ポイント】

・ダッシュボード、帳票作成、ツール連携など多様なアウトプットができる
・常に最新情報にもとづいて経営上の意思決定を行える

次は「アウトプット」です。

データのアウトプットは、おもに3通りに分けられます。

1つ目はWebブラウザ上で表示する方法です。例えば、ダッシュボード機能で関連するグラフをまとめたシートなどを表示できます。発展系としてはWeb埋め込み機能があります。これによって、自社のポータル画面などにJava Scriptなどを使ってグラフを埋め込むことができます。このWeb埋め込み機能はツールにより得意不得意があり、うまく活用するためには専門知識が必要です。

2つ目は、PDFやExcelファイルなどの形式でアウトプットする方法です。サイズや配置の調整ができるかどうかは製品によって異なります。ファイルを出力する機会が多い企業は、事前に確認しましょう。

そして3つ目は、ツール連携配信機能により、Slackやメールなどと連携してレポートを表示する方法です。

外部ツールとの連携配信がどこまで細かくできるかは製品によって異なります。Slackとの連携でおもしろいのが「Looker」です。Lookerbotという機能が備わっており、Slack上でIDを入力するだけで、Lookerから該当のレポートを取り出せます。ほかにも、DOMOという製品では、登録した携帯電話にSMSでレポート配信ができます。

──アウトプットを重視すべき業務はどういったものでしょうか?

経営陣への提出資料や、会議用の資料を作成するために使うケースが多いと思います。全社の売り上げなどの数値をわかりやすく表やグラフにまとめて、役職者に提示する、といった使い方ですね。

BIツールは、必要な項目を設定しておくと自動でデータ更新をしてくれるので非常に便利です。常に最新の情報を提出できる状態にしておけますから、経営上の意思決定などが素早く行えるようになります。

導入メリットについてはこちらの記事でより詳しく解説しています。

BIツールメリットアイキャッチ

BIツールの導入メリットについて知りたい方はこちら

【監修あり】BIツール導入のメリットとは? デメリットはある?

まとめ

BIツールの導入メリットと選び方についてお伝えしました。初めてBIツールを導入する場合には「セルフサービス型」の製品を選ぶのがおすすめです。

BIツールを使えば各種データを効率的に収集・分析できます。ツール内のデータは自動で最新の状態に更新されるので、常に新しい情報を得ることが可能になります。分析したデータから新たな気づきや着想を得てビジネスの戦略を練るといった活用ができれば、より効果的に事業を展開していけるでしょう。

UIや操作性などは、実際に製品を使ってみないとわからないところです。ほとんどの製品には無料トライアルが用意されているので、希望する分析やアウトプットができるかどうかを確かめてみるとよいでしょう。

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