この記事の目次

【この記事に登場する有識者】
株式会社キュービック
Vice President of Engineering
後藤 康成
シリコンバレーのスタートアップにてプログラマーとしてエンジニアリングの経験を積む。2000年からネットエイジにジョインしCTOとして新規事業立ち上げおよびベンチャー投資を担当。その後自身でフィードパスを設立しCOO、CTOを歴任しヤフーへ売却。2012年ヤフーにてソフトバンクとのインド合弁企業を設立しモバイルサービスのゼロイチ担当後、Y! mobileの事業立ち上げを統括。2016年ネオキャリアにて海外事業部CTO兼IT戦略を担当。その後インシュアテックスタートアップのCOOを経て2020年にキュービックのVPoEに就任。
オンラインストレージの選定ポイントを専門家が解説
オンラインストレージの導入を検討する際には、どのような点に気をつけて製品を選べばよいのでしょうか。
オンラインストレージに詳しい、株式会社キュービックVPoEの後藤康成に、製品選定のポイントについて伺いました。
【オンラインストレージ選定のポイント】
ステップ1:「グループウェア型」と「オンラインストレージ単体型」のどちらにするかを決める ステップ2:ユーザー数に応じた価格設定で選ぶ |
ステップ1:「グループウェア型」と「オンラインストレージ単体型」のどちらにするかを決める
──オンラインストレージの選び方のポイントについて教えてください。
オンラインストレージを選ぶ際は、大きく2つのステップがあります。
最初のステップとして「グループウェア型」と「オンラインストレージ単体型」のどちらにするかを決めましょう。
──「グループウェア型」と「オンラインストレージ単体型」の違いは何ですか?
【「グループウェア型」と「オンラインストレージ単体型」の違い】
<グループウェア型> ストレージ機能とビジネスアプリがセットになっている 製品:Google ドライブ、OneDriveなど <オンラインストレージ単体型> ストレージ機能に特化している 製品:Box、Dropbox Businessなど |
【選択時のポイント】
ストレージ機能だけでなく、そのほかのビジネスアプリも一緒に利用したい ⇨グループウェア型 ストレージ機能だけを利用したい、グループウェア型のストレージ機能では不十分 ⇨オンラインストレージ単体型 |
グループウェア型製品は、ストレージ機能だけではなく、「コミュニケーションツール」「スケジュール管理機能」「ドキュメントの作成・編集」といった、ビジネスアプリがセットで搭載されています。
例えば、Microsoftが提供するオンラインストレージの「OneDrive」は、WordやExcelなどのOffice系アプリとセットで、Microsoft 365として提供されています。
グループウェア型はセット料金になるので、すでに利用しているグループウェアのストレージ機能であれば追加コストがかかりません。
普段の業務でMicrosoftのOffice系アプリを利用しているなら「OneDrive」、スプレッドシートやドキュメントなど、Google Workspace(旧G Suite)を利用しているなら、「Google ドライブ」がおすすめです。
グループウェア型のストレージ機能では不十分だと感じたり、ストレージ機能だけが使えればよかったりする場合は、オンラインストレージ単体型を検討するとよいでしょう。オンラインストレージ単体型にも外部アプリと連携可能な製品があるので、普段の業務で利用しているアプリと連携可能かは、事前にチェックしておきたいポイントです。
ステップ2:ユーザー数に応じた価格設定で選ぶ
2つ目のステップは「ユーザー数に応じた価格設定で選ぶ」です。
オンラインストレージの多くは、ユーザー1人当たりの利用料金が設定される従量課金制です。つまり、ユーザー数が増えるほど、コストは高くなってしまいます。
また、ユーザー数によって利用できるプランに制限があり、料金体系も変わってしまうケースがあるので注意が必要です。
【グループウェア型製品の月額料金比較】

上の表を見てください。Google ドライブのStandardプランと、OneDriveのBusiness Standardプランの1人当たり利用料金は、どちらも月額1496円(税込)です。
しかし、ユーザー数が300人を超えると、Google ドライブはEnterpriseプランしか利用できないため、料金が1人当たり月額3300円(税込)に値上がりしてしまいます。つまり、OneDriveのBusiness Standardプランと2000円近くの差が出てしまうのです。
ユーザー数が300人以下で容量が2TBで十分な企業ならばどちらを選んでも変わりませんが、300人を超える場合はOne Driveの方がお得になります。
オンラインストレージ4製品を比較
ここからは、多くの企業で利用されている「Google ドライブ」「OneDrive」「Box」「Dropbox Business」の4製品を比較し、それぞれの特徴について解説していきます。
【各製品の特徴】
製品 | 特徴 |
---|---|
Google ドライブ | Google Workspaceのアプリと連携しやすい |
OneDrive | Office系アプリとの連携がしやすい、費用対容量が高い |
Box | 利用人数が10人以上なら、どのプランでも容量無制限 |
Dropbox Business | ユーザビリティが優れている |
【グループウェア型】Google Workspace利用なら「Google ドライブ」
Google ドライブ 公式サイト https://www.google.com/intl/ja_jp/drive/ 運営会社 Google |
【プランと料金】
プラン | 料金/人 | 容量/人 | 人数制限 |
---|---|---|---|
starter | 748円 | 30GB | 上限300ユーザーまで/下限なし |
Standard | 1496円 | 2TB | 上限300ユーザーまで/下限なし |
Plus | 2040円 | 5TB | 上限300ユーザーまで/下限なし |
Enterprise | 3300円 | 必要に応じて拡張可能 | 上限なし/下限なし |
Google ドライブは、グループウェア「Google Workspace」のストレージ機能であり、Googleアカウントを所持していれば誰でも利用可能です。
Google Workspaceではオフィスアプリもセットで提供されているため、書類の作成・編集、チャットやWeb会議、スケジュール管理なども行えます。従業員が300人以下の企業ならStandardプランを選べますが、それ以上になるとEnterpriseプランの利用になります。
単純な費用対容量で考えると、同じグループウェア型オンラインストレージのOneDriveに劣ります。Google WorkspaceのStandardプランは1人り当たり月額1496円(税込)でストレージの容量が2TBなのに対して、OneDriveが含まれるグループウェア「Microsoft 365」の Business Standardプランは、同じ料金で容量が無制限で利用できます。
【グループウェア型製品の月額料金比較】

ただし、ドキュメントやスプレッドシートなど、Googleオフィスのアプリを使って作成したファイルは、Google ドライブのストレージ容量を消費しません。普段の業務でGoogleオフィスで使用しているならば、Standardプランでもそれほど容量の上限に気を使わなくてもよいでしょう。

Googleドライブは特にGoogle Workspaceを利用したい企業におすすめのグループウェア型ストレージです。
【グループウェア型】 Microsoft 365利用なら「OneDrive」
OneDrive 公式サイト https://www.microsoft.com/ja-jp/microsoft-365/onedrive/online-cloud-storage 運営会社 Microsoft |
【プランと料金】
プラン | 料金/人 | 容量/人 | 人数制限 | 備考 |
---|---|---|---|---|
Business Plan1 | 594円 | 1TB | 上限なし/下限なし | ストレージ機能のみ |
Business Plan2 | 1199円 | 1TB※1 | 上限なし/下限なし | ストレージ機能のみ |
Business Basic | 594円 | 1TB | 最大ユーザー数300人 | グループウェア型 |
Business Standard | 1496円 | 1TB | 最大ユーザー数300人 | グループウェア型 |
※1 対象のプランのサブスクリプション ユーザー数が5人以上の場合は、
容量無制限の個人用クラウドストレージを使用可能。5人以下の場合はユーザー1人あたり1TBとなる。
OneDriveは、Microsoftが提供するグループウェア「Microsoft 365」のストレージ機能です。Microsoftのアカウントを所有していれば誰でも利用できるため、Google ドライブと同様に敷居の低いオンラインストレージといえるでしょう。
Microsoft 365のBusiness Standardプランは、1人当たり月額1496円(税込)でストレージの容量が無制限。
WordやExcelなどのOfficeアプリで作成したデータを直接OneDriveへ保存・アップロードできます。パソコンのOSがWindows 10であればOneDriveはプリインストールされているので、導入の手間がかからない点も魅力です。

OneDriveの特徴は費用対容量の優秀さとOfficeアプリとの連携のしやすさにあります。Microsoft 365をフル活用している企業におすすめです。
【オンラインストレージ単体型】容量重視の企業におすすめの「Box」
Box 公式サイト https://www.box.com/ja-jp/cloud-storage 運営会社 Box |
【プランと料金】
プラン | 料金/人 | 容量/人 | 人数制限 |
---|---|---|---|
Starter | 605円 | 100 GB | 最大10人 |
Business | 1980円 | 無制限 | 無制限 |
Business Plus | 3300円 | 無制限 | 無制限 |
Enterprise | 4620円 | 無制限 | 無制限 |
Boxは多くの大企業が利用しているオンラインストレージ単体型の製品です。
Boxは特に保存容量を重視する企業におすすめ。法人向けに提供されている「Business」「Business Plus」「Enterprise」の3つプランは、ストレージの容量が無制限になっています。
また、Boxはセキュリティの高さにも定評があります。保存されているデータにはさまざまなレベルでアクセス制限をかけることが可能です。外部アプリとの連携強化にも積極的で、1500を超える外部アプリと連携可能です。

Boxは、ユーザビリティよりもストレージ容量やセキュリティ性などのビジネスライクな機能を重視したい企業におすすめです。
【オンラインストレージ単体型】料金重視の企業におすすめ「Dropbox Business」
Dropbox Business 公式サイト https://www.dropbox.com/ja/business 運営会社 Dropbox |
【プランと料金】
プラン | 料金/人 | 容量/人 | 人数制限 | 備考 |
---|---|---|---|---|
Standard | 1375円 | 5TB | 上限なし/下限3名 | 1回の転送で最大2GBのファイルを送信 |
Advanced | 2200円 | 必要に応じた容量 | 上限なし/下限3名 | 1回の転送で最大100GBのファイルを送信 |
法人向けにシェアを伸ばしているBoxとは異なり、Dropboxは個人単位のコンシューマー層もターゲットに含めて広く事業を展開しています。
料金設定は全体的にBoxよりも安価です。BoxのBusinessプランが1人当たり1980円(税込)であるのに対し、Dropbox BusinessのStandardプランは1人当たり月額1375円(税込)と、ユーザー1人当たりの料金の差額は約600円です。従業員数が数百人の規模であれば月に数十万円の差が出ます。また長期的な利用を考えているならば、さらに金額差は大きくなります。料金重視の企業ならBoxよりもDropbox Businessの方が向いています。
ただし、Dropbox BusinessのStandardプランは、データを保存できる容量が5TBまでと上限があるので注意が必要です。大量のデータを扱うことが予想される企業であれば、容量に優れたBoxの方が適切な場合も多いでしょう。

Dropbox Businessは、運用コストを低く抑えたい企業にとっては有力な選択肢といえます。そのほかにも、個人使用も意識した高いユーザビリティ、操作の簡易さなども魅力です。
オンラインストレージのセキュリティをチェックするポイント
──それぞれのオンラインストレージサービスの特徴はよくわかりましたが、セキュリティ面の充実度が気になります。
もちろん、オンラインストレージサービスを導入する際には、セキュリティ面の充実度も入念にチェックしなくてはいけません。
企業が管理する機密情報には、顧客や取引先の個人情報など、非常にセンシティブなものも含まれています。データベースへの不正アクセスによる情報漏えいなど、サイバー犯罪やトラブルについてのニュースが世間を騒がせることも珍しくない昨今、「セキュリティ・コンプライアンスの徹底」は、企業の信用に直結する重大なテーマです。
まず、強調しておきたいのは、現在のオンラインストレージサービスは、セキュリティ面がかなり機能が充実してきているということです。
強固なセキュリティを目指すと指数関数的に費用が高額になっていきますが、例えば100人規模のスタートアップ企業であれば、自社でオンプレミス環境のデータサーバーを構築・運用するよりもオンラインストレージを利用した方が、セキュリティ面でも経済合理性の面で優れた選択である場合が多いです。
各製品のセキュリティ機能
オンラインストレージの導入を検討する際に最低限チェックしておきたいポイントは、「2段階認証」「データの暗号化」「ログ監視機能」「ファイル復元が可能な期間」「閲覧制限/編集制限の設定」「端末紛失時のアクセスブロック」です。
下記の表からもわかる通り、多少の違いこそあれ、どれの製品も基本的なセキュリティ対策は施されています。
【各製品のセキュリティ比較】

2段階認証、データの暗号化、閲覧制限/編集制限の設定は、ストレージやファイルへの不適切なアクセスを防ぐ機能です。端末紛失時のアクセスブロック機能も同様で、例えば「オンラインストレージにアクセスしていたスマートフォンやタブレットを紛失しまった」という場合に、管理者が遠隔操作でストレージへのアクセス権限を失効させることができます。
そして、データベースで何かトラブルが発生した際などに不可欠なのが、ログの監視機能です。「誰が」「いつ」「どんな」操作をしてそのトラブルが起こったのかを追跡できます。例えばBoxは、管理者権限を持った人物の不正操作すら警戒し、まったく改ざんできないようにログを保管する機能を備えています。
不正な操作やミスなどによってファイルが消失してしまった場合に備え、データの復元可能期間もチェックすべきです。オンラインストレージ上のデータは、削除操作をすると「ごみ箱」に移動され、一定期間経過した後に完全消去されます。
ごみ箱に入っている期間ならユーザーが自分で元の場所にデータを戻せますが、ごみ箱からも削除されてしまった場合は、ストレージサーバーの提供元に依頼して復元措置をしてもらわなければなりません。
表に記載されているファイル復元可能期間とは、ゴミ箱から消去されてしまったデータが復元可能な期間のことです。ただし、OneDriveは、ごみ箱にある期間からカウントされるので注意してください。例えば、ごみ箱に入れてから30日後にデータが完全消去された場合、そのデータを復元できるのは残り63日間となります。
データセンターの場所
オンラインストレージサービスのセキュリティを考える上で、「データベースのサーバーが、どこのデータセンターにあるのか」も重要です。
普段はあまり意識しないかもしれませんが、クラウド上のデータはどこかの国に物理的に存在するデータセンター内に保管されています。そのため、データセンターが自然災害やテロなどで損害を被った場合に、そのサーバーに保存されているデータが消滅してしまう危険性があります。
製品選定の際には、データーセンターの場所もあらかじめ確認するようにしましょう。
まとめ
本記事では、オンラインストレージサービスを選定する際のポイントと、主要な4製品の特徴について解説しました。
オンラインストレージサービスを選ぶ際には、まず該当のサービスが「グループウェア型」と「オンラインストレージ単体型」のどちらであるかを確認することから始めるとよいでしょう。それにあわせて、自社がどんな機能を必要にしているのか確認し、「従業員数(ユーザー数)」や「データ容量」に応じたサービスやプランを考えてみてください。